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2021年9月3日

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佐々木正明 (ささき・まさあき)

ジャーナリスト、大和大学社会学部教授

1971年岩手県生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業後、産経新聞社に入社、大阪社会部、モスクワ支局長、リオデジャネイロ支局長、運動部次長、社会部次長を歴任。特派員として五輪・パラリンピックやサッカーW杯を取材した。2021年春から現職。著書に『恐怖の環境テロリスト』(新潮新書)、『シー・シェパードの正体』(扶桑社新書)。

 パラリンピック初出場のブラインドサッカー(5人制サッカー、以下ブラサカ)日本代表が東京大会10日目の9月2日、世界ランキング3位、欧州王者のスペインを相手に5-6位決定戦に臨み、「奇跡のゴール」を決めて、1―0で勝利した。

 日本代表は6年前に就任した高田敏志監督のもとで「緻密な準備×パッション」を軸に歩みをとめず、パラ2勝の5位で東京大会を終えた。体格差で劣る選手たちを、最新のスポーツ科学やIT技術などを活用して強化し、対戦相手の癖を丸裸にするスカウンティグ能力で作戦勝ちしたブラサカ勝利のメソッドは、企業や組織などが弱点を補って急成長を果たす際のエッセンスがびっしりと詰まっている。

(YUTAKA/アフロスポーツ)

 

準備しすぎるほどの準備が生んだゴール

 東京湾岸・青海アーバンスポーツパークに勝利をつげる笛が鳴る。ピッチでこの試合前日に18歳になったばかりの園部優月選手が右腕を高らかに突き上げた。ベンチで顔をくしゃくしゃにして喜び合う高田監督やチームスタッフたち。サムライブルーのユニフォームを身にまとった選手たちが1つになって抱きしめあう。

 激闘の末に、選手たちの暗闇の視界の中で広がった勝利の光。それが日本サッカー界の歴史の1ページを塗り替える瞬間だった。

 試合後のインタビューで、日本代表のエース、川村怜選手は「メダルという形には残らなかったですけど、これまで取り組んできたことを最高の舞台で出し切れた。苦しい時間も日本中から応援が届いた。僕たちに魂が宿っていた」と涙声で話した。

 ゴールを決めた背番号11の黒田智成選手は「みんなの気持ちが一つになって、奇跡のようなシュートが決まった。これまで、この舞台を目指して努力してもなかなかたどり着けなかった。自分にとっては夢の舞台。最高のライバルたちと戦えたことは幸せな時間だった」と振り返った。

 ブラサカは視覚障害のある4人のフィールドプレーヤーと健常者(ルール上では弱視プレーヤーも可)のゴールキーパー(GK)の計5人でチームを編成。試合時間は20分ハーフの40分で、フットサルと同じ広さのコートで行われる。

 フィールドプレーヤーはアイマスクの着用が義務付けられ、転がると音が出るボールと、相手のゴール裏に立つ「ガイド(コーラー)」の声を頼りにゴールを狙う。

 この日の5-6位決定戦はスペイン代表がシュート23本に対して、日本代表が5本。前半終了間際に奪った虎の子の1点に対して、日本代表が身体を張って、スペインの猛攻を守り切るという試合展開だった。

 黒田選手の得点はこの日まで日本代表がひた隠しにしていた「秘密のセットプレー」(高田監督)によるスーパーゴールだった。川村選手がコーナーキックを浮き球で中央にあげたクロスを走りこんできた黒田選手が右足ダイレクトで叩き込む。このゴールシーンについて、TSUBASA代表取締役でサッカー解説者の岩本義弘さんがこうツイートした。

 「盲目のプレーヤーがダイレクトでシュートを決めることがいかに難易度が高いか。このプレーができるようになるために、どれだけの練習を繰り返してきたのか」

 3年前にブラインドサッカー日本代表の臨時コーチを務め、NHKでの予選中継の解説役を務めた中西哲生さんも「準備しすぎなんじゃないかとも思うぐらい準備している」と舌を巻いていた。高田監督も「どんな結果になっても悔いがないほど、綿密な準備を積むことができた。あの秘密のセットプレーが、決まるのが我々のフットボールです」と打ち明けた。

最新技術をいち早く取り入れる

 ブラサカ日本代表にとって、パラリンピック出場は悲願だった。予選リーグ3試合目のアジアのライバル、中国に敗れ惜しくも準決勝進出を逃したが、欧州の強豪フランス、スペインに対して堂々の2勝を挙げた。パラ4連覇中のブラジルの敵将、ファビオ・リベイロ・デ・バスコンセレス監督が高田監督に激励のメッセージを送った。

 「おめでとう。日本は大きく進化した。君たちは正しい方向に進んでいる。ハグを送るよ。神とともに!」

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