家庭医の日常

2021年9月25日

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葛西龍樹 (かっさい りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。カナダ家庭医学会認定 家庭医療学専門医課程修了 (ブリティッシュ・コロンビア大学)。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 -日本のプライマリ・ケア革命』(筑摩書房)、『スタンダード家庭医療マニュアル』(永井書店)、『家庭医療 ~家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために~』(ライフメディコム)、監訳に『マクウィニー家庭医療学(上巻・下巻)』(ぱーそん書房)、『医師は患者をこう診ている』(河出書房新社)、『患者中心の医療の方法 原著第3版』(羊土社)など。

 ところで私自身は、健診へ行くのが嫌いだ。大抵は急いで健診会場へ駆けつけ、多くの人たちで混み合っているところで、流れ作業で行われる多くの検査を受けていく。躊躇する間も無く無理矢理、例えば血圧を測られる。案の定、測定値は高くて、「深呼吸をして下さい」と担当の看護師さんに何度か促されて再測定される。そして「やっぱり高いですね」「家では正常なんですけど……」と毎年同じやり取りだ。

 腹囲測定はもっと悲惨で(笑)、ひんやりする巻尺をお腹に巻きつけられて、「2センチ、オーバーしてますね」と告げられる。今年担当だった看護師さん(失礼ながら決してスリムでない)がわずかに微笑したように感じたのは気のせいだろうか。

 「ハイ、お疲れ様。健康に気をつけて下さいね」という励ましを素直に受け取れない自分を反省しつつその場を出る。健診には医師による診察もあるが、あまりに簡略化された申し訳程度の問診で、とても健診を受ける一人ひとりの健康増進に資するとは思えない。

日常生活のちょっとした場面で変わる血圧

 まあ自分のことはどうでも良い。健診結果へのアドバイスを求めているのは、目の前にいるT.K.さんだ。

 健診結果についていろいろと確認が必要だが、まずは血圧が本当に高いのかを確認したい。だが、実はこれが大変なのだ。

 私が親しくしているオランダの若手家庭医のマークは、血圧測定についての一連の優れた臨床研究を行なって学位(医学博士)を取得したが、彼の学位論文集の扉には、ギリシアの哲学者ヘラクレイトス(紀元前540〜480頃)の言葉“Panta rhei”が書かれていた。

 最近では某TVアニメのオープニング・テーマのタイトルにもなっているようだが、“Panta rhei”は「万物は流転する」という意味で、血圧が時々刻々と変動することを強調するマーク流の洒落だ。実際、血圧は日常生活のちょっとした場面の違いで10〜20mmHg(ミリ水銀)ぐらいすぐ変化する。家庭血圧計をお持ちだったら試してみるとよい。

 それでは、真の血圧を知るには、どうやって血圧を測定したら良いのだろう。基本は、安静を保てる機会をできるだけ多く作って、できるだけ何回も測定して、それらの測定値の平均と傾向を参考にすることである。

「ガイドライン」の改訂も参考に

 「診療ガイドライン」というものがある。10年ちょっと前までは、その分野の権威者がこうだと言えばそれに従うかあるいは我流で診療していた日本の医学界であるが、ようやく最近になって変化が見えてきた。臨床課題(診療上の疑問=どうしたら良いか知りたいこと)に答えを出せそうな、関連する多くの臨床研究の結果(エビデンスや根拠と呼ばれる)を集めて系統的に検討し、グレードをつけて推奨を示す、というEBM(根拠に基づく医療)に沿って作成された診療ガイドラインが増えてきているのだ。

 日本高血圧学会が2019年に発表した『高血圧治療ガイドライン2019』もそのような診療ガイドラインの一つである。日本医療機能評価機構内に事務局があるEBM普及推進事業(Medical Information Distribution Serviceに由来してMindsマインズと呼ばれ、私も運営委員会メンバーをしている)では、診療ガイドラインの選定、作成支援、活用促進を行っており、『高血圧治療ガイドライン2019』も『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』に沿って作成された。

 そのため、日本の高血圧の診療ガイドラインも、この19年の改訂版からようやく「成人の本態性高血圧患者において、家庭血圧を指標とした降圧治療は、診察室血圧を指標とした治療に比べ、推奨できるか」という臨床課題への答えとして、「家庭血圧を指標にした降圧治療の実施を強く推奨する」という明確な推奨が加えられるようになった。

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