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2021年10月18日

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滝田洋一 (たきた・よういち)

日本経済新聞社特任編集委員・テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』解説キャスター

1981年慶應義塾大学大学院修了後、日本経済新聞社に入社。金融部、チューリヒ支局、米州総局編集委員などを経て現職。2008年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。近著に『コロナクライシス』(日経プレミアシリーズ)。

 この点で岸田氏は、官邸と党を使い分ける構えだ。経済閣僚は安定重視とする一方で、自民党の方は幹事長に甘利氏、政調会長に高市氏を配し、成長路線を前面に打ち出す。キーパーソンは総裁選で岸田陣営を支えた甘利氏。岸田政権で新設した経済安全保障相の初代となるのは、当選3回の小林鷹之衆院議員。岸田氏が本部長、甘利氏が座長となった自民党の「新国際秩序創造戦略本部」の事務局長を務めた。

 エネルギーや情報通信などの基盤産業について、サプライチェーンなどの脆弱性を克服する「戦略的自立性」と、日本なくしては始まらない「戦略的不可欠性」を確立する。前者が経済安全保障の守りとすれば、後者は攻め。小林氏は担当大臣としてその実行を担う。

 経済再生担当相となった山際大志郎衆院議員も、経済産業副大臣の経験がある政策通で、チーム甘利に属する。コロナ対応に追われた前任の西村康稔経済再生担当相と異なり、コロナ第5波の収束を受けて、経済政策の立案、実行に力を注ぐことが期待されている。

 一方、党の側での新味に欠けるとの指摘もあるが、違う。

 高市氏の政調会長就任は2度目。前回は、第2次安倍政権発足直後の2012~14年。安倍首相(当時)自身が「アベノミクス」という大枠を掲げたなかでの政調会長だった。今回は、①小型モジュール炉(SMR)、核融合炉などを見据えたエネルギー政策、②半導体、産業用ロボット、素材、量子工学などの成長分野、そして③サイバーセキュリティーや経済安全保障といった、高市氏自身の政策を具体化する場となる。

カギは成長と分配の4本柱

 肝心の岸田氏が目指すのは成長と分配の好循環を実現する経済運営だ。昨年9月の自民党総裁選で敗れて以来、政策を練り上げてきただけに、重点項目は比較的ハッキリしている。成長と分配の両分野での「岸田4本柱」だ。

 成長のための岸田4本柱からみていこう。①科学技術立国、②経済安全保障、③デジタル田園都市国家、④人生100年時代の不安解消──この4つである。

 まず①科学技術立国では、10兆円の大学ファンドを年内に創設する。これは菅義偉前政権からの継続案件。研究開発や人材育成などへの税制支援をうたうが、課題は支援の具体策である。グリーン・エネルギー政策のなかでは原発再稼働をうたい、再生可能エネルギー1本に頼ることはしない。この辺に現実重視が際立つ。

 次に②経済安全保障については、先に述べた担当大臣の新設。ここが目玉である。③デジタル田園都市国家は、5G、テレワーク、自動運転など、あまり目新しさがない。「デジタル推進委員」を全国に展開するというが、デジタル庁に屋上屋を架すようではいけない。

 さらに④人生100年時代の不安解消として、働く人は誰でも加入できる「勤労者皆社会保険」を掲げる。正規・非正規にかかわらず企業で働く全ての人が社会保険に入る仕組みで、岸田氏が政調会長時代に提言した。「給付抑制(第一の道)や負担拡大(第二の道)に加えて社会保障改革の第三の道(社会保障の支え手の拡大)」を目指す点が岸田氏らしいといえる。

 分配のための岸田4本柱は、①三方良し経済の実現②子育て世帯支援の拡充③公的価格の抜本的見直し④財政の単年度主義の弊害是正──である。

 最初の①は、買い手良し、売り手良し、世間良しの近江商人を思わせる。企業の株主だけではなく、従業員や取引先も恩恵を受けられる「ステークホルダー・キャピタリズム」を鮮明にしたもので、いわゆる新自由主義からの決別である。四半期開示の見直しや非財務情報の公開拡充で長期経営を求める。下請けいじめゼロは世論にアピールするとみられる。

 次の②子育て世帯支援については、分配機能を重視して所得の引き上げを狙う、令和版の所得倍増の実現手段と位置付けている。居住者や教育費への支援を強化するが、安倍政権や菅政権の施策の延長という面も強いだろう。

 そして③の公的価格見直しは、医療(看護師)、介護(介護士)、育児(保育士)など、仕事に比べて割安な報酬の引き上げが狙いだ。「公的価格評価検討委員会」を新設し、賃金の引き上げを促す。

 さらに④は企業に長期経営を求めるのと同じ発想で、国の予算にも長期的な運営を求めるものだ。

 成長と分配の岸田4本柱はそれぞれ密接に絡み合っている。興味深いことに、岸田氏と高市氏の政策の方向性は重なり合っている。「分厚い中間層」という表現は、両氏とも目標に掲げている。

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