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2021年9月30日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 自民党の新しい総裁が決まった。

 岸田文雄氏は、コロナ対策、沈滞しきった経済の再生という緊急かつ重要な政策課題では、経験と力量で、それなりの実績をあげてくれるだろう。いまの日本を困難の中においているのは、短期的問題だけではない。深刻なのは、中長期的、より本質的な危機だ。

(代表撮影/ロイター/アフロ)

 総裁選の期間中、日本の国力衰退を象徴する動きが相次いだ。二流国への転落を防ぐ処方箋、新しい世界に向けた日本の羅針盤、グランドデザインを岸田氏が明確に示したかといえば、かならずしもそうとはいえまい。独り、氏だけではない。敗れた3候補についてもいえることだった。

 今世紀も幕開けからすでに20年以上。

 次期首相は、新しい時代の「国のかたち」を示し、その実現に向かって国民の先頭に立つ強力なリーダーシップを発揮しなければならない。

危機感薄く国家観は不明確

 新総裁選出を受けての段取りは、すでにメディアで報じられている。

 10月4日召集の臨時国会で指名を受けた新首相は組閣後、所信演説、与野党の代表質問の論戦を行った後、10月21日に任期満了となる衆院の総選挙に臨む方針といわれる。

 新しい党役員、新内閣の顔ぶれとならんで、岸田新首相が所信表明で国民に向けて何を語るか、とりあえずの焦点だろう。

 岸田氏は勝利を決めた後の両院議員総会でのあいさつ、夕方から行った総裁としての初記者会見で「明るい未来めざして今日から走り始める」と政権担当への決意を表明した。

 政策課題として、当面コロナ対策、数十兆円規模の経済対策を急ぐ方針を示し、「その先に〝新しい資本主義〟、開かれたインドパシフィック構想の実現、少子化対策など未来に関わる問題が控えている」と述べ、総裁選での公約、「日本型資本主義」の実現に意欲を示した。

 岸田氏は選挙期間中、「丁寧で謙虚、寛容な政治」をスローガンに、新自由主義からの脱却を強調。「市場や民間に任せるのではなく、官民が協働して産業を興し、国民生活を豊かにする」として経済面から国を立て直すことを強く語った。

 コロナ禍で疲弊した経済、国民生活を明るいものにしようという意欲が感じられたが、その人柄同様、やや地味、大向こうをうならせるには至らなかった。 

 敗れた河野太郎氏は、「分断を超えたぬくもりのある社会」を掲げた。「国民一人ひとりが、いろいろなものをつかめるような日本の国を作りたい」として、やはり国民を不安から解放、将来への希望を与えることを約束した。

 高市早苗氏、野田聖子氏はそれぞれ、「全世代の安心感創出に資する政策」、「こども、障害者ら小さきもの、弱きものへの手厚い社会建設」――などを訴えた。

 岸田次期首相はじめ各候補が同時に明らかにしたコロナ対策、社会保障、安保・防衛など短期的な具体策では、それなりの工夫を凝らし、それぞれ一定の支持をつかんではいただろう。

 しかし、国の将来像についてみれば、個性、独創性はにじんではいたが、どこまで聞く者の心に響き、入り込むことができたか。具体性が十分ではなく、個別政策が各々の国家観とどう関連づけられるのかもやや不明確、しっくりこなかった国民も少なくなかったのではあるまいか。

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