もっといえば、響きのいい将来像を語るのは、総裁選だから当然とはいえ、各氏とも日本がいま置かれている困難な現実、二流国への転落の分岐点にあることへの危機感が薄かった印象はぬぐえない。
危機を象徴する高齢化とAUKUS除外
総裁選の前後に国内外でみられたさまざまな動きは、いずれも 中長期的な危機に根差すことばかりだった。
なかでも深刻、強い関心を払うべきは、65歳以上の人口が過去最高になったことだ。もうひとつは、中国を念頭に置いたあらたな国際的枠組みオーカス(AUKUS)が日本抜きで発足したことだろう。
高齢者の人口(9月15日現在)は、昨年より22万人増の3640万人、総人口に占める割合は29・1%。総人口1億2665万人は、昨年から48万人も減少しているから、いまや日本は世界最大の高齢国家になってしまった。
AUKUSのメンバーは、米英豪、いずれも英語圏の3国だけだ。
豪州に対する原子力潜水艦の技術供与を主要目的とする軍事的色彩の強い枠組みであることを考えれば、日本が除外されたのはやむをえまい。しかし、豪州は当初、日本の海上自衛隊の「そうりゅう型」潜水艦の導入を予定していたのをフランスとの共同開発に乗りかえ、今回はさらに、英国に変更した。
激怒したフランスは駐米、駐豪大使を一時召還したものの、バイデン米大統領の釈明を容れ、矛を収めた。そもそも日本製潜水艦から変更されたこと、AUKUSから、わが国が蚊帳の外に置かれたのは、対中包囲網があまりに露骨になることを避ける狙いからというのはわかる。
しかし、これら一連の経緯は、フランスとともに日本の国際的なパワーが大きく衰退、主要な国際的プレーヤーではもはやなくなったことも、図らずも示した。AUKUSが、あくまで中国への対抗が目的ならば、少なくとも日本を〝準構成国〟として遇してもしかるべきだったろう。
国際舞台でも示すべき「日本の姿」
AUKUS同様、中国を念頭に置いた日本と米国、豪州、インドによる枠組みクアッド(Quad)首脳会合が総裁選たけなわの9月24日(日本時間25日)、ワシントンで開かれた。
退陣表明した菅義偉首相が異例の出席をしたのはいいが、開会中の国連総会の首脳一般討論を見送り、ビデオ演説でお茶を濁した。辞任表明直後だけに居心地の悪さはわかるとしても、せっかくワシントンに来ているのだから、国連まで足を伸ばすことを避けたのは理解できない。
グルーバルな問題での日本政府の立場を堂々と主張し、「次期首相があらたな政策を発表する」と説明していれば、各国の反応も違っただろう。今年はコロナ騒ぎのあおりで2年ぶりに首脳が直接演説する機会となっただけに、首相が登壇しないとあっては、日本の世界における存在感は薄れる一方だ。
こうした日本の置かれた状況を考えるにつけ、新総裁に選ばれた岸田氏はじめ、各候補に対しては、コロナ対策など短期的な危機解消策だけでなく、国の将来像に関する議論を期待した国民は少なくなかったはずだ。