2024年12月23日(月)

Wedge OPINION

2021年10月22日

第6波、新たな感染症……
将来の脅威に備えるには

──近い将来でいえば第6波の到来が懸念されているが、新型コロナに限らずわれわれは常に新たな感染症の脅威にさらされる可能性がある。次なる危機にどう備えるか。

吉峯 私は新型コロナの流行前から医事法(医療に関する法律)を研究してきたが、コロナ以前は「感染症法」への関心はほとんどゼロだった。医療業界でも、生活習慣病予防や健康年齢伸張といったことが注目され、感染症に関しては「結核やコレラなど、昔は大変だったが今は征圧された過去の分野」といったみられ方だった。新型コロナでにわかに注目を浴びたが、医療分野も法律分野も感染症を専門とする組織や人材が脆弱だったのではないか。中長期的な人材育成が不可欠だ。

 危機対応についても、行政や自治体ごとの行動計画や地域医療計画の中で、感染症流行時の対応がマニュアル化されていたが、末端のシステムを含め、それぞれが連携しておらず、実際の流行発生時には十分に機能しないことが今回のコロナ禍で分かった。

 政府や自治体など、行政機関は今回のコロナ禍で何ができて、何ができなかったのかをしっかりと検証し、シミュレーション設定からシステム連携を含め、危機対応のバージョンアップを図るべきだ。

──医療体制についてはどうか。

 感染症拡大期のような有事を前提にして医療体制を拡充させると、平時には過剰な体制となってしまう。大切なのは医療体制を「平時」から「有事」へと迅速に切り替えられる体制をいかに整備するかだ。

 英国の公的保険医療制度(NHS)の下では医療機関を国が運営しているので、有事の際の指揮系統が明確だ。各医療機関や職員には自由度が少ない分、医療現場の混乱を最小限にする上では有利となる。

 東京都の例でいえば、都立病院は公営だからこそ東京都の指揮命令下にあり、コロナ病棟の設置や患者受け入れなどの対応が早かった。地域医療の一部について普段は公費で支えながら、年に2~3回行政と連携して感染症流行期のシミュレーション訓練を実施し、有事に備えられるような体制を平時から整備するべきだ。

吉峯 軍隊は「戦争」という有事に備えて訓練を重ねている組織であり、災害出動のように、感染症対策でもさらなる活躍の余地があるのではないか。

 感染症対応に「災害基本法」を適用すべきだという意見もあった。地震や台風とは異なるが、新型コロナはまさに災害だった。政府は「災害にあたらない」と解釈したが、仮に災害基本法は適用しなくとも、災害法制の考え方を取り込んで体制を整える必要がある。

 接触確認アプリ「COCOA」はうまくいかなかったが、スマホアプリなどを有効に使って感染症拡大を予防し、行動制限を減らすことが可能なのであれば、選択肢から外すのは惜しい。堀先生と研究もご一緒しているが、公衆衛生、技術、法律の知恵を集めて、体制を整えていくべきだ。

 2009年の新型インフルエンザ流行時もそうだったが、国民も行政も、危機が収束すれば「疲れたし、その話はもうやめよう」といった風潮に流されてきた。第5波は落ち着きをみせたが、事態が収束した直後こそ、これまでの対応を検証し、次へ備えるのに最も適している。

「将来への備え」というと遠い未来のように聞こえるが、感染症の危機はいつ訪れるか分からない。明日新たな感染症が発生し、新型コロナと同時に猛威を振るう可能性すらある。だからこそ〝喉元過ぎれば熱さを忘れる〟とならないように、多少時間を要するとしても、今回のコロナ対策を踏まえた法律や行動計画の見直しに不断に取り組む必要がある。

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PART6 再エネ増でも原発は必要 米国から日本へ4つの提言
フィリス・ヨシダ(大西洋協議会国際エネルギーセンター上席特別研究員)
PART7 進まぬ原発再稼働 このままでは原子力の〝火〟が消える
編集部
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Wedge 2021年11月号より
脱炭素って安易に語るな
脱炭素って安易に語るな

地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。


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