大統領はその質問をはぐらかすように、「あなたはAPECが気に入った?ウラジオストクの地元の人々は、どのように今回の世界的な行事を受け入れたの? 実は、モスクワやペテルブルグでこの行事が行われる可能性もあったんだ」と返す。
編集長は大統領の問いかけにもお構いなしといった感じで、「APECでは会見に入れなかった。5年間もあなたの記者会見への許可が許されなかった」と恨み節でつぶやく。
「今回は参加することが出来た。じゃあ進展はあったね」と大統領。
「まあ、あったわね。ただ、それだけ。冗談のような感じだけど」
プーチンはお手上げだといった感じで両手をあげるポーズをしてみせる。
すると、編集長はなおもぼやきを続け、「橋も道路もいいけど、時々、落下するじゃない(★事実、ウラジオの主要道路はAPEC開催前に崩壊した)。生活がいいのは富裕層だけで、貧困層は前と変わらない」と嘆く。そして、この下りは前置きで、質問したいのは、11月に発覚した国防省の多額横領事件についてだと告げた。
この事件を巡っては、女性幹部が逮捕され、プーチン大統領の側近だったセルジュコフ国防相を自身で解任する事態に至っている。国防相は、女性幹部宅に捜査員が踏み込んだときに、その自宅にいたとされ、不倫スキャンダルとしても取り上げられている。国防相の妻は、プーチン大統領の盟友の娘なのである。
「解任された国防相は、泥棒ね。あなたは彼を任命し、すでに無罪放免とした。彼らが盗んだお金はどうやって返却されるの?」
「盗んだってどういうこと?」
「大金を盗んだのよ。まさかあなた知らないの?」
プーチン大統領は頭をかき、苦笑しながら「知らないね」と言うしかなかった。
サラビエンコ編集長は会見から一夜明け、このやりとりで一躍有名人となった。