質問のトップバッターは、雑誌「スノップ」の女性記者だった。彼女は、12月中旬に米国で制定されたマグニツキー法関連のテーマについて取り上げた。この法律は、ロシア内務省当局者の不正横領行為を追及していたマグニツキー弁護士が2009年に獄中死した事件にちなみ、反民主化や人権侵害を許さない米国が、この事件に関わった人物の入国を禁止する制度を作ったもの。ロシア国内では連日、トップニュース扱いになっており、米国批判が噴出。プーチン大統領も「これはロシアに対する敵対的な法律だ」と断言した。
しかし、スノップの女性記者が問いただしたかったのは、オバマ政権への見解ではなく、この法律に反撃する形で、ロシア下院で審議が進む対抗処置法、すなわち、ロシア人孤児の米国での養子縁組を新法で制限しようとする動きについてだった。米国には身寄りのない多くのロシアの子供たちが渡っているが、全員が幸せな人生を送っているわけではなく、引き取り手の身勝手な振る舞いで死亡するなど悲劇を迎えるケースもある。国会は、保守派が主導して、米国への養子縁組を禁止する法制化を企んでいた。
反米法制定に前向きな姿勢を示す
多くの孤児を抱え、社会問題化しているロシアでは、世論にもこの対抗法への反対論が根強く、女性記者は「政治の戦いに子供を利用している」と非難した。対して、プーチン大統領は「下院の対応は感情的だが、適切でもある」と法制化に前向きな姿勢を示し、「もし我々が平手打ちされたら、私たちもそれに応えなければならない。さもなければ、ずっと平手打ちが続く」「国に屈辱を与えるわけにはいかない。我々は外国人による養子縁組を禁止していない。そんな国は米国だけじゃないか」とも強調した。
マグニツキー法や対抗法についてはその後も8人の記者から再質問され、社会での関心の高さを示した。ロシア当局はマグニツキー氏の死の真相や彼が追っていた巨額横領の実態を調べていないとする米紙ロサンゼルスタイムズの記者に、プーチン氏は真剣な表情で向き合って「彼は拷問ではなく心臓発作で死んだのだ」と反論。反体制メディアの代表格、露紙「ノーバヤ・ガゼータ」の記者が自社のサイトに10万人の反対署名が集まっていることを伝えると、大統領は「国会はこのことを考慮にいれるべきだ。私は国会から提案されたものを見て判断する」と建前として、一歩引いている姿勢を見せることも忘れなかった。
北方領土の島を「プーチン島」に
この記者会見はきっと、日本政府外交当局者も注目していたに違いない。なぜなら、プーチン大統領から、先の衆院選で勝利し、26日に発足する自民党政権へのコメントが正式に出ていなかったからだ。北方領土を事実上、管轄する露極東サハリン州の記者が、「南クリール(ロシアでの北方四島の呼び名)の島にプーチンの名前をつけたらどうか」と提案したときに、日本への言及があった。