そこから、テープに汚れを付着させるコロコロ方式に行きつき、早速、ニトムズに共同開発を申し入れた。鈴木は、ストレスなく掃除ができるよう「ひと拭きで90%程度の皮脂成分が取れる」性能を要請した。鈴木はニトムズの粘着剤の技術をもってすれば、開発にそう時間はかからないと踏んでいた。
ところが、想定外に難航する。床掃除用のコロコロは、さまざまなホコリや髪の毛などの吸着には威力を発揮するが、ガラス面に付着した皮脂成分となると、状況は違った。なかなかうまく取り除けないし、粘着剤がガラス面にくっ付いてしまうということもあった。粘着剤の種類、シートに貼り付ける厚さなど数十種類の試作を重ねたものの、鈴木が目標とするスペックには到達しなかった。
付着した皮脂が粘着剤の内部に浸透
着手から1年近くが経過し、商品化に対する岐路が訪れていた。キングジムの商品開発はスピードが重視される。このようにニッチを攻める商品はなおさらだという。鈴木は並行して他の商品も開発しており、数カ月の中断を余儀なくされた。それでも、ニトムズの開発者とこれまでの取り組みを無駄にしたくないという思いも強く、仕切り直しをした。
協議の結果、粘着剤を工業用の両面テープなどに使われるアクリル系のもので試すことにした。粘着力が強く、かつ比較的容易に成分のバリエーションを試すことができるからだった。目標には達しなかったものの、最初の試作で性能は大幅に改善され、商品化の実現が見えてきた。
数十種類の試作を経て、ようやく目標性能を満たす粘着テープができ上がった。まさに鈴木とニトムズ開発陣の粘り勝ちだった。テープのおおよその交換時期を把握するため、直ちに耐用テストに取りかかった。試験を行ううちに、予想外に皮脂成分の吸着性能が持続することがわかった。分析すると、粘着剤の表面に付着した皮脂が、時間とともに粘着剤の内部に拡散・浸透していた。もともと、粘着剤には皮脂と結合しやすい成分を配合していたが、それが想定以上に活躍していたのだ。
耐用試験から、鈴木は粘着テープ1周分でやや慎重に見積もっても40回の掃除が可能と判断した。このことは、「より求めやすい価格で発売でき、ローラーの外径など製品寸法をよりコンパクトにスマートにする」という利点をもたらした。