2024年11月24日(日)

ヒットメーカーの舞台裏

2013年2月11日

 液体の両面テープで、貼った後にはがすこともできる――というコンセプトで投げかけ、さまざまな用途をユーザーに発掘してもらおうという仕掛けだ。ところが、発売の1カ月ほど前に開かれたDIY関連の展示会に出品すると、反響は上々だった。一般来場者による人気投票では2位にランクされた。

 業務用も合わせた初年度の販売目標は2億円と、セメダインの単一商品では異例の高い数字を掲げたが、達成のペースに乗ってきたという。家庭向けなど一般用は、20ミリリットル入り683円で販売している。

 「こんな使い方がある」と、ユーザーからの“提案”も続々と寄せられるようになった。主婦からは、キッチンの壁にティッシュをボックスごと取り付けるというアイデア。愛犬家からは室内に置くペットシートの固定にというもの。このほか、園芸用の各種フィルムの補修、フィギュアやプラモデルを飾る際の固定用にといった具合だ。

 接着剤ではくっつきにくいポリプロピレン製など身近な樹脂製品に使えるのもBBXの特徴。たとえば書類用のクリアファイルの一部に塗布し、壁に貼り付けることで着脱可能な簡易整理ケースができる。液体であるため、両面テープが使いにくい凹凸面や曲面などにも使いやすい。また、両面テープにはテープ同士がくっつかないように「離型紙」と呼ぶ紙テープが使われているが、BBXでは不要であり「とくに工業用では廃棄物対策にもつながる」(木村)という利点もある。

継続雇用のベテラン社員
「もう一度製品企画がしたい」

 開発がスタートしたのは09年秋。木村は60歳の定年後、継続雇用制度により3年のお勤めを終えたところだった。それまでの10年間に従事したのは経営企画部門だったが、「悶々とした思い」が残った。入社以来、もっとも長く籍を置き、自分のフィールドでもあった製品企画の仕事を「最後の恩返しに、もう一度だけ」と切望したのだった。

 木村が自らの指針ともしてきた創業者、今村善次郎の製品開発や研究に関する遺訓を、中堅クラスの開発者に伝承しておきたいという思いも強かった。申し出ると、1年ごとの契約によるプロジェクトの立ち上げが認められた。

 経営層からはセメダインが本格参入していない「粘着剤」の開発を要請された。木村は20年近く前に開発にかかわって商品化し、いまや同社で最大の売上高を誇る商品となっている接着剤「セメダイン スーパーX」(以下スーパーX)の原料に着目した。スーパーXは粘着から接着というプロセスを経てモノを強力にくっつける。


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