潰えぬ想い「中国を変えたい」
浦氏の原点は天安門事件だ。その当事者として記録を集める研究者・呉仁華氏の著書『六四事件全程実録』(TW允晨文化)によると、民主化運動のターニングポイントとなった1989年5月13日からの絶食(ハンガーストライキ)の際、中国政法大学から先頭を切って天安門広場に向かったのが浦氏だった。
天安門事件から25周年を迎えた2014年5月3日、浦氏は内輪の記念研究会に出席し、「六四の歴史を残していかなければならない」と私の取材に答えた後、消息を絶った。
浦氏は公安に拘束され、彼が大切にした調査報道記者にも捜査が及んだ。事情聴取を受けた記者は、公安から「浦はここ2~3年で調子づいているな。この辺りが逮捕しなければならない時だ」と聞かされた。拘束は報復であった。
結局、浦氏の起訴内容は、自身の微博での発信が「民族の恨みを煽った罪」と「騒動を挑発した罪」に当たるというものだ。14年5月1日に発信した次のつぶやきも当局に問題視された一つである。
「新疆が中国のものと言うなら、植民地として扱わず、征服者や略奪者にならなくてもよいだろう。相手を敵とみなすなんて荒唐無稽な国策だ」
国際社会が現在、人権問題の象徴として対中非難を強めるウイグル問題について、浦氏は早くから声を上げていた。これがなぜ「民族の恨みを煽った罪」に当たるというのか。
15年12月14日の初公判。北京市第二中級人民法院へ取材に行った私が見たのは、「法治なき国家」の姿だった。傍聴を求める欧米外交官、取材する外国メディア、声援を送る支持者らに対して私服警官が「出て行け」と怒鳴り散らし、暴力を使って追い払った。「騒動挑発」で問われるべきは警官だった。結局、その8日後の22日、執行猶予3年の付いた懲役3年の有罪判決が言い渡された。
私の北京駐在が終わり帰国直前、浦氏にようやく会えた。「数年後、また北京に赴任する」と伝えたが、結局それは果たせず、19年3月下旬、浦氏の息子が留学している東京で再会した。「中国を変えたい」という浦氏の気力と気迫はそのままだった。
一方で共産党内部の醜い政治闘争は目を覆いたくなる。浦氏が目の敵にした周永康(元共産党中央政法委員会書記)、さらに北京市公安局長として浦氏の言論弾圧事件を指揮した傅政華(前司法相)らは相次ぎ失脚した。浦氏を追及した人物が実は腐敗や不正にまみれ、権力闘争に明け暮れているという現実を目の当たりにし、この国の正義と信頼はどこにあるのかと疑わざるを得ない。
浦氏は今も、フェイスブックやユーチューブで発信を続けている。21年12月3日、浦氏は、清華大学教授として習近平への過度な権力集中や言論統制を批判する文章を書き続けた改革派知識人・許章潤氏らと大笑いしながら会食する姿を発信した。暗闇の中でもまだ中国の言論は死んでいない。
■ 人類×テックの未来 テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ
part1 未来を拓くテクノロジー
1-1 メタバースの登場は必然だった
宮田拓弥(Scrum Ventures 創業者兼ジェネラルパートナー)
column 1 次なる技術を作るのはGAFAではない ケヴィン・ケリー(『WIRED』誌創刊編集長)
1-2 脱・中央制御型 〝群れ〟をつくるロボット 編集部
1-3 「限界」を超えよう IOWNでつくる未来の世界 編集部
column 2 未来を見定めるための「SFプロトタイピング」 ブライアン・デイビッド・ジョンソン(フューチャリスト)
part2 キラリと光る日本の技
2-1 日本の文化を未来につなぐ 人のチカラと技術のチカラ 堀川晃菜(サイエンスライター/科学コミュニケーター)
2-2 日本発の先端技術 バケツ1杯の水から棲む魚が分かる! 詫摩雅子(科学ライター)
2-3 魚の養殖×ゲノム編集の可能性 食料問題解決を目指す 松永和紀(科学ジャーナリスト)
part3 コミュニケーションが生み出す力
天才たちの雑談
松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科 教授)
加藤真平(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)
瀧口友里奈(経済キャスター/東京大学工学部アドバイザリーボード・メンバー)
合田圭介(東京大学大学院理学系研究科 教授)
暦本純一(東京大学大学院情報学環 教授)
column 3 新規ビジネスの創出にも直結 SF思考の差が国力の差になる
宮本道人(科学文化作家/応用文学者)
part4 宇宙からの視座
毛利衛氏 未来を語る──テクノロジーの活用と人類の繁栄 毛利 衛(宇宙飛行士)