CHANGE CHINA

2021年11月3日

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梶谷 懐 (かじたに・かい)

1970年生まれ。2001年、神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程修了。神戸学院大学経済学部准教授などを経て、現在、神戸大学大学院経済学研究科教授。著書に『中国経済講義』(18年、中公新書)、『幸福な監視国家・中国』(高口康太氏との共著、19年、NHK出版新書)などがある。

區 龍宇(おう・りゅうう)
區 龍宇(おう・りゅうう)
1956年生まれ。社会活動家、労働問題研究者。99年、中国における労働・環境問題をリサーチする非政府組織(NGO)「グローバリゼーション・モニター」を創立。2006年、世界貿易機関(WTO)第6回閣僚会議に対するアクションで「香港民衆連盟」代表の一人となる。著書に『台頭する中国:その強靱性と脆弱性』(14年)、『香港雨傘運動:プロレタリア民主派の政治論評集』(15年、共に柘植書房新社)など。

 2019年夏、逃亡犯の中国本土引き渡しを認める条例への反対運動をきっかけとして香港全体に広がった民主化運動は、広く内外の人々の関心を集めた。

 しかしこの運動は、20年6月、香港国家安全維持法(国安法)の可決・施行により、50年間続くとされた「一国二制度」「高度な自治」そのものが実質的に終焉する、という思いもよらない形で幕を閉じた。国安法により、すでに多くのメディア関係者、民主派議員や活動家がこの法律によって逮捕され、運動を支えてきた団体が解散に追い込まれている。

 だが、そんな厳しい状況の中でも、不屈の精神をもって香港の民主化の必要性を訴え続ける人たちも存在する。その一人が「プロレタリア民主派」を掲げる香港の左派論客、區龍宇氏である。區氏は、10代の頃から労働運動に積極的にかかわってきたほか、国際的にも広い人脈をもつ社会活動家として知られている。

 區氏はその近著『香港の反乱2019 抵抗運動と中国のゆくえ』(寺本勉訳、柘植書房新社)で、あくまでも当事者の観点から、さまざまなグループや潮流の主張に十分な目配りをしつつ、一つの大きな流れとして民主化運動をとらえることに成功している。同書は、民主化運動の背景となった歴史的な背景から、個々の運動の局面で現れてきた香港社会の矛盾、北京政府の横暴、そして運動自体がもつ問題点の指摘まで、民主化運動の多面性を描き切った、現代の香港問題に関心にある者なら必読の書といえるだろう。

 しかし、區氏をはじめとする香港の民主的左派の政治的主張や言論活動について、これまで日本ではほとんど知られてこなかった。區氏については『香港雨傘運動』などの著作が翻訳されているものの、その立ち位置のユニークさなどは十分に認識されているわけではない。

 では區氏ら、左派民主活動家の主張の特徴はどこにあるのか。それは、彼らが香港の民主化にあたって、中国本土の草の根民衆との連帯が重要だ、という立場を堅持している点だ。この観点から區氏は、香港の自由を守るには本土中国とは縁を切るべきだ、と主張する「本土派」に対し、一貫して厳しい批判の目を向けてきた。その排外的な姿勢が、中長期的には民主化の妨げになることを憂慮していたからだ。

『香港の反乱2019』が特筆すべき書物なのは、このような排外主義をはじめとして、一連の運動が抱えていた諸問題が、的確に整理され、批判されている点だ。區氏によれば、民主化運動の最大問題は「明確な理念とリーダーの不在(=無大台)」という言葉に集約される。

 運動に参加した若者たちは、「中国化」が進む現状と決別することを優先させるあまり、「次に何をするのか?」という問いにはそれほど関心をもたなかった。つまり、運動の理念などについて議論を深め、運動の方向性を明らかにすること自体が忌避される傾向があったという。

 このような運動の流動性の高さは、確かに幅広い層の民衆を抗議活動に参加しやすくする、という利点をもっていた。同時に負の側面として、個々の行動のもつ意味が十分に考慮されず、少数の過激な抗議者の行動によって運動全体が影響されてしまうという状況を生んだ。

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