2024年4月25日(木)

CHANGE CHINA

2021年11月3日

行き過ぎた暴力への指摘

 區氏によれば、急進的な若者たちは運動内での対立を避けようとするあまり、「集会や組織化、投票のような民主的な意思決定の考え方に反対する」という、いわば自己矛盾に陥った。深い思慮に基づいて運動の方向を論じようとする者は、「リーダーになりたいのか?」という批判を受け、次第に沈黙していった。

 そのような組織化への否定が、デモに対する警察の暴力的な鎮圧への対抗という背景があるにせよ、一部抗議者による行き過ぎた暴力行為に対し、運動内部からの批判が次第に困難になる、という状況を作り出してしまったのだ。

 區氏が一連の民主化運動に投げかけるもう一つの批判は、一貫した労働問題、そして社会階層問題への関心の薄さである。氏によれば、香港に長らく君臨してきた不動産・金融業界を中心とする財界と中国共産党との深いつながりこそ、香港の民主化の最大の障害となってきた。

 というのも、彼らは、香港の労働者や自営業者が政治的に力をつけ、これまで香港と連接する広東省などを中心に生じてきた、農民工などによる労働争議、あるいはそれを支援するNGOの活動と連帯することを何よりも恐れていたからだ。

 だから區氏は、香港の民主化運動は香港、そして大陸の労働運動と連帯すべきだ、と主張する。しかし、本土派は、「北京対香港」の構図にこだわるあまり、香港の富裕層ではなく中国からの新移民を自らの「敵」とみなす誤りを犯してしまった。

 筆者は、19年12月に區氏らを神戸に招き、「香港からの緊急報告:研究者・市民との対話」という集会を企画した際、異なる立場の人々との理性的な対話により問題を解決しようとする氏の姿勢が、香港を取り巻く厳しい状況の中で一筋の希望となりうると直感した。上記のような區氏の言説は、たとえそれに全面的に賛成はできないとしても、大陸出身の心ある中国人の耳にも届くものだ、と考えるからだ。

以前、来日し沖縄を訪ねた際の區龍宇氏(中央、本人提供)

 冒頭でも述べたように、香港の自由は大きく制限されてしまったが、區氏らのような筋金入りの活動家の、民主化に向けた情熱は決して失われていない。彼らは現在でも『無國界社運』『流傘』などの言論プラットフォームを中心に、国際的な連携を模索しつつ、積極的な情報発信を行っている。區氏が、民主化運動の当事者としてその意義を高く評価しながらも、その「影」の側面を厳しく指摘し続けるのも、その姿勢が中国本土の草の根民衆との連帯のために不可欠だと信じているからだ。

 日本に住む私たちが、香港に関心を向け、自由と民主を求める人々に声援を送ろうとするならば、彼のような左派の主張にも、もっと耳を傾けていくべきではないだろうか。

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編集部

   
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脱炭素って安易に語るな

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