ペルーのカスティージョ大統領の迷走ぶりは、国際的メディアの注目を浴びるまでになっている。1月31日、バスケス首相は、国家警察における汚職への対応などで、カスティージョへの不信感を強めたこともあり、辞表を提出した。翌日、バレール議員を新首相に任命するも、過去の家庭内暴力問題が表面化し、早くも2月8日に更迭、アニバル・トレス前法務相が後任の首相に任命された。カスティージョにとり4人目の首相となる。
もともと地方の小学校教師で教員組合のストライキを指導した程度の政治経験しかないカスティージョは、党首が汚職問題で立候補できない共産主義政党ペルー・リブレの候補に担がれたに過ぎなかった。しかし、その新鮮なイメージが首都リマでの既成政治家の権力闘争に辟易していた地方の有権者の共感を呼び、ケイコ・フジモリとの決戦投票でも僅差で勝利するという幸運が重なった。従って、カスティージョにはもともと大統領に必要な知識や経験もなかった。
今回の騒動で最も問題なのは、政治経験も豊富で大統領を補佐することが期待されたバスケス首相の辞任が、大統領への不信感と優柔不断を理由としている点だ。すなわち、政策上の問題ではなく、資質を問題としているのである。
カスティージョは、ペルー・リブレの候補として当選したが、同党は、一院制の議会の130の議席のうち32を占めるに過ぎず、中道派と右派で過半数を超えるので、政権運営のために左派急進的主張を押さえ、ペルー・リブレとあえて距離を置き始めていた。バスケス等の左派穏健派の閣僚の補佐により、中道派の支持を得て穏健な左派路線を歩む可能性も期待されていた時期もあった。
混乱を招いている原因は、カスティージョの種々の政策判断を補佐官らのインナーサークルが影の内閣として牛耳っており、首相や閣僚の意見よりもそれらの側近の助言が重視されたためと言われている。インナーサークルの人材は、カスティージョの地元の知り合いや縁故によるもので、また一部には腐敗の噂も付きまとっている。カスティージョとしても他に信頼できる相談相手はおらず、このインナーサークルの意見に振りまわされているようである。
4人目の首相となるトレスは、弁護士会の会長などを務める法律家で、選挙運動にも参加し、ペルー・リブレを法的に支えフジモリ派に対抗して来た。スキャンダルには縁が無さそうであるが、政権を指導し調整する政治力があるのかは疑問である。