2024年4月16日(火)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2022年7月6日

3分の2が「乱獲誘発補助金」の日本漁業

 日本が協定を緩める方向に交渉方針を取り続けたのは、日本自身の漁業が「補助金まみれ」状態にあるからである。先ほどのスマイラらの研究では、日本の18年時点での漁業補助金は28.6億ドルにのぼり、そのうち3分の2を超える21.1億ドルが乱獲を引き起こすまで漁業生産能力を向上させ得る補助金と推定されている。

 実際、22年度水産予算(21年度補正含む)総額3200億円のうち、約3分の1の1019億円は漁業者への不漁時の減収補填や価格上昇時の燃油への補填金により構成される漁業経営安定化対策であり、さらに3分の1の1134億円は漁港の整備などに当てられる水産公共予算である。その上、約280億円が「漁船リース事業」という漁業者への漁船取得補助に充てられている。

 このうち不漁時の減収補填については、個々の漁業者の直近5年の収入のうち、最大と最小を除いた3年分の平均を基準の収入とし、ここから10%以上の減収が生じた場合、国が4分の3を負担する積立金や国が平均7割を補助している共済金から補填するというものである 。国庫負担分はまさに漁業補助金に該当しており、もしサバなど国が委託した資源調査によって資源水準を割り込ませている乱獲と評価された対象ならば、WTO漁業補助金協定で禁止される補助金に該当しかねない。

 ところが水産庁の担当者は「今回の合意で補助金を具体的に減らさないといけないとは捉えていない」と答えている 。減収補填を受ける仕組みに加入するために、漁業者は「資源管理計画」を作成して資源管理に取り組むことが求められている。この自ら作成した「資源管理計画」を実施している限り、補助金協定第4.3条の「補助金やその他の措置を通じて資源が持続可能な水準に回復するよう目指されている場合」に該当するので補助金を供与しても構わない、と主張することもできるためだろう。

 しかし水産庁の資料によると、21年3月末現在で2866件ある「資源管理計画」で評価された2409件のうち、評価結果が「増加」となっているものは4分の1の648に過ぎない。「減少」と評価された644件のうち、計画の強化が求められず単に「継続」とされているものが511件と大半を占めるなど 、「資源管理ごっこ」になっているものが少なくない可能性がある。

効果が見えてこない漁港の整備

 水産庁は「資源管理計画の一覧」をホームページ上に掲載しているが、資源管理計画の内容に関しては「休漁」「漁具制限」など極めて簡潔に紹介されているのみで、どのような内容であるのか、どのようにして履行を評価したのか、なぜ評価結果がそのように言えるのかの詳細が全く不明である。

 水産公共予算にしても、そもそも水産予算の3分の1をも占めていること自体問題なしとしないし、個々のプロジェクトを見ても、果たしてこのような多額の国費を投じて漁港の整備を続ける意義があるのか判然としないものが少なくない。例えば拙稿 「無用の長物と化す「豪華漁港」に予算を費やす水産行政」でも以前触れたが、山口県下関市では「特定漁港整備事業計画」等に基づき総事業費155億円を投じ、岸壁の改良や荷捌き場の高度衛生管理化対策工事、周辺道路の整備が行われている。

工事が進む下関漁港(2018年、筆者撮影)

 各地で進められる漁港整備事業については、水産庁による事業評価が行われており、下関の事業評価では総事業費を上回る計176億円の便益が得られることが有用の根拠とされている。これは、漁港整備により高度衛生化された場合に魚価が8%上昇すると仮定し、12年から16年までの水揚額149億円にこのパーセンテージを掛けた総額年12億円、トータルで170億円の利益が生み出されるとの計算に主として依拠しているのだが 、地元の市場関係者が「各地で同様に整備するので特異性がなくなり、魚価の向上に繋がらないし、そもそも高度衛生化によって魚価が高くなったという話は聞いたことがないし、その実態もない」と語っているように、便益の算定根拠が甚だ疑問である。

 山口県の「下関漁港統計年報」によると、1996年には9万7000トンだった水揚量は2021年には2万3000トンに、水揚げした船も1996年の1万754隻から3622隻に落ち込んでいる。かつて栄えた時と同規模、あるいはそれを上回る漁港を整備する必要があるのだろうか。


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