事業承継の交渉に入ると、後継経営者の候補者を連れてオーナーとじっくり面談し、経営についての考え方を共有・理解してもらうことが大事だという。SoFunが最初に手掛けた案件では、吉川氏が21年4月に京都市にある建設業(従業員十数人)の後継経営者となった。この会社はかつて関西で最大規模を誇ったが、会社の分裂などもあり徐々に規模を縮小させてきた。オーナーは74歳と高齢で、親族承継にも失敗、社内でも継ぎたいという人材がいないという状況だった。
事業承継した吉川氏は、オーナーが絶対権力者という構図から脱却を図り、社内風土の変革、やりがいのある制度、デジタル化などを積み上げたことで「利益の中身・今後の事業展開としては大幅な改善が見込まれ、5年後に関西ナンバーワンを目指す土台ができた」という。
現在2つ目の企業を承継済みで、他にもいくつかの案件が進行中だという。吉川氏は事業承継した経営者について「経営者が長期間同じなのは好ましくない。5~10年くらいで交代し、次のキャリアに挑戦してもらいたい。株主として長期ビジョンはぶらさずに、経営者交代により新たな目線を入れ、中小企業の経営者という固定的なキャリアに流動性を持たせたい」と話す。経営者=オーナーという関係性ではないことで、経営者自身にも緊張感が生まれるという効果もあるだろう。「次の経営者は社員の中からか、外部からの登用という選択になる」と先を見据えている。
70歳超の経営者
127万人の後継者が未定
経済産業省によると、25年までの間に平均引退年齢の70歳を超える中小企業経営者は約245万人。このうち約半数の127万人(日本企業全体の約3分の1)の後継者が未定だ。
休廃業・解散件数と経営者平均年齢の推移
国も動き出し、19年には中小企業基盤整備機構の中に事業承継・再生支援部を設立、各都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターを設け、積極的な仲介に乗り出している。センターが仲介して事業承継した企業の6割が売り上げ1億円以下で、家族経営しているような小規模事業が多いのが特徴だ。同支援部の木口慎一審議役は「事業承継は景気に関係なく強いニーズがある。後継者不在の小規模事業者と経営者になりたい個人を登録させてマッチングする『後継者人材バンク』を使った成約件数は21年度に53件に達し、着実に増えている」と前向きだ。
また政府系金融機関の日本政策投資銀行は、中小企業の経営人材の不足と事業承継の課題を解決するツールになる「サーチファンド・ジャパン」を20年に設立、10億円のファンドを用意して、現在2件の事業承継案件の投資を実行している。投資対象企業の制限はなく、売り上げ規模は5億~20億円の企業が対象だ。
政策投資銀行の企業投資第3部の巻島隆雄調査役は「このファンドを活用すれば後継者を探している企業は、後継経営者候補と面談して直接選ぶことができ、後継経営者が主導する経営をファンドがバックアップするので、企業、後継者ともにミスマッチの不安は取り除かれる」と、この手法のメリットを強調する。