まずは米国との対話ルートを確保
ペトロとしては、政権発足後の期待感の高まりの中で一気に税制改革法案の早期成立を目指すのであろうが、今後、富裕層や経済界の反発を背景に与党議員の造反により法案が修正される可能性もある。この法案の成否は、ペトロが構築した政党間連合政権の持続可能性を占うと共に、もし所得に応じた課税や富裕層の資産への課税、更にオカンポ財務相が主張する徴税機関の強化が成功すれば画期的であり、同様の格差是正問題や税収拡大の課題に直面している他のラテンアメリカ諸国にとってのモデルとなる歴史的意義を持つことになる可能性がある。
他方、ペトロが妥協し続けたり、この税制改革による税収では公約実現のために不十分ということになれば、本来の支持勢力である左派急進派が不満を持ち、徹底的な変革を期待したペトロ支持層の離反を招きかねない。そうなれば次第にペトロが左派的路線に戻り政権後半には、連立政権の解消、国内対立の先鋭化による社会不安といった事態に陥ることを懸念する向きもある。ペトロにとって、このような制約の中で種々のハードルを如何に乗り越えていくのかが今後の困難な課題となろう。
懸念された対米関係も、ペトロ当選をバイデン自身が電話で祝福し、ペトロは知米派の元閣僚を駐米大使に指名し、7月には、米国側がハイレベルの代表団を派遣するなど、とりあえず対話のルートを確保し良好な関係を保つことに双方の利益が合致しているように見える。コロンビアにとり麻薬対策やFTA改定の交渉を控え、貧困対策等経済開発への支援や民間投資の面で対米関係は引き続き重要であり、バイデン政権にとりペトロの気候変動対策や反汚職の姿勢には好ましい面がある。
ペトロ政権はベネズエラとの関係正常化を行うが、ベネズエラ問題について手詰まり感のあるバイデン政権にとって、直ちに関係悪化させるものではない。もっとも、麻薬対策や米国とのFTA改定に関するペトロの要求に米側は応じないであろうし、完全和平実現を目指すペトロ政権が麻薬組織を含む武装勢力との和解を試みる場合には、米国との関係で難しい問題となる可能性もあろう。
左派過激派で黒人として初の女性副大統領となった環境活動家のフランシア・マルケスは、7月に次期副大統領としてブラジル、アルゼンチン、チリ、ボリビアを歴訪した。コロンビアが、左傾化を強める南米やラテンアメリカ諸国の連帯強化の旗振り役となる可能性もあり、米国としてもコロンビアを始めとして対ラテンアメリカ外交を改めて再構築する必要があろう。