8月7日に就任したコロンビアの初めての左派系大統領であるペトロは、就任翌日、富裕層や石油・石炭の輸出への課税を中心とする税制改革法案を提出した。8月12日付けのフィナンシャル・タイムズ紙の解説記事‘Colombia’s Petro pushes tax reform to fund ambitious social agenda’は、法案の骨子と成否につき、次のように報じている。
・法案は、来年、58億ドルを追加徴収することを目指しており、これは国内総生産の約1.7%に相当する。その後10年間は、平均1.4%の新規収入を見込んでいる。
・月収2300ドル以上(コロンビアの上位2.4%)の人々への増税を行い、63万ドル以上の貯蓄と財産に毎年富裕税が課される。
・コロンビアからの石油、石炭、金の輸出価格が、国際価格、即ち原油1バレル48ドル、石炭1トン87ドル、金1オンス400ドルを超えた場合、これらの輸出に10%の課税が行われる。
・コロンビア企業の株式を保有する海外投資家に対する配当税が、10%から20%に倍増することになる。
・大統領が有権者に約束した歴史的な変革を実現するために、この追加的な収入源は極めて重要だ。選挙期間中、ペトロは、国民皆保険制度や高等教育への補助金や全面的な土地改革や年金改革など、多くの革新的な改革とともに、露天掘りの採掘や新たな石油・ガスの探査を停止することを公約していた。これらが実現できなければ、昨年、当初、付加価値税の引き上げに抗議して街頭に繰り出した数万人もの彼の支持者達をたちまち怒らせてしまうリスクがある。
・ペトロが、執務開始日に「妥当な」税制改革を提示したことは、議会での早期承認を確保する試みと見られている。しかし、ペトロのプラグマティズムは、また、その急進的なアジェンダの穏健化を受け入れざるを得なくするもので、左派の支持者と伝統的な政党の間の緊張に発展するであろう。議会や有権者との蜜月が終わったとき、政治的混乱と社会不安のリスクは依然として高い。
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ペトロの大統領選(5月に第1回投票、6月に決選投票)でのさまざまな革新的な公約の中でも、経済格差是正の要求に対応するための低所得者向けの補助金の増加等社会政策の充実や最近のインフレ対策は最も重要であり、財政赤字是正の必要もある中で歳入を確保する税制改革は、最優先事項であると言える。
ペトロは、大統領選挙キャンペーン中、種々の社会政策の他にも、環境保護と脱炭素化、武装勢力との完全和平実現、麻薬問題への対応、農村・農地改革、米国との自由貿易協定(FTA)の改定、ベネズエラとの和解等、多数の重要な公約を行ったが、立法措置が必要な施策は当然ながら議会の承認が必要となる。3月の総選挙では、与党となる「歴史的盟約」連合は議会で過半数には達せず、ペトロは、大統領当選後その立場を柔軟化、現実化して、議会での多数派工作を精力的に行った。
その結果、選挙戦で対立した伝統的な中道政党各派の支持も獲得して、現在では、上下両院で十分な余裕をもって過半数を確保できる連立政権を構築した。野党はウリベ元大統領が率いる右派政党だけとも伝えられている。