2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年7月8日

 6月19日に行われたコロンビアの大統領選挙決選投票は、過激派左派とポピュリストとペトロの戦いとなった。左派は、元ゲリラのグスタボ・ペトロ元ボゴタ市長、ポピュリストの方は、「コロンビアのトランプ」の異名をとる実業家のロドルフォ・エルナンデスである。決選投票は大接戦となったが、ペトロが得票率50.4%、エルナンデスが同47.3%で、ペトロが勝利した。

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 この決選投票は、コロンビアの安定の観点からは不毛の選択だった。5月29日に行われた第1回投票では、2位につけると見られていた中道右派のグティエレス(それなりの政治家である)が、あっさり「コロンビアのトランプ」ことエルナンドに抜かれ、決選投票に進むことができなかった。

 コロンビアの有権者は、安定した不平等よりも、とにかく何らかの「変化」を選択し既成政治家を排除することを望んだわけである。これはまさに、2018年にメキシコとブラジルで、昨年ペルーとチリで生じた現象でもある。

 ペトロ政権の公約は実現できないものも多い。法律の改正を伴う過激な左派的政策は議会での多数が得られず、また、自由貿易協定の改正や麻薬の合法化などは米国の同意が必要である。大統領の権限で行える措置としてはベネズエラとの国交回復、貿易協定の廃棄や一方的な関税引き上げ等外交面での措置であり、米国との関係が悪化することは避けられないであろう。

 ペトロは、元ゲリラの左派とはいえ、一応は議会人でもあるので、その行動はある程度予測可能である。当選しなかったが、エルナンデスは、おそらく政府の仕組みを判っておらず、経費節減のための強引な省庁統合や在外公館の売却、汚職対策を名目に90日間の非常事態宣言を提案するなど、世論の注目を浴びるために大統領権限を乱用することが懸念されていた。そのような意味では、メキシコのロペス・オブラドールによく似たタイプの大統領になっていたことだろう。

 元ゲリラのペトロとポピュリストのエルナンデスが決選投票に残ったのは、議会、政党、軍、警察、メディア等ほぼすべての機関に対して鬱積した国民の不満が背景である。


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