3月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストの ジャナン・ガネシュが、ウクライナ問題では、バイデンの理想主義的外交がサウジアラビア等の離反を招き米国外交の足かせとなっており、もっと現実主義的外交をすべきであると論じている。
ガネシュは、ウクライナ戦争を民主主義と独裁主義の戦いと位置付けたのでは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、更には中国の協力を得ることができないので、より現実的な外交政策をとるべきだと述べる。歴史的にも、米国は、ソ連との対抗で中国に肩入れしたり、韓国やラテンアメリカの軍事政権を支援したりしたように、目的のためには、非民主的勢力の協力を得て来たと指摘する。そして、今後の中国との覇権争いにおいても、そのような戦術が必要となると論じている。
バイデン外交には、人権・民主主義を重視する民主党の基本的立場が背景にある。また、トランプの理念なき外交を批判して政権を獲得したこともあり、自らの持論でもある民主主義重視の価値観外交を進めて来た。
また、バイデンの個人的性格にもあるのか、これまでサウジやア首連の指導者、イスラエル首相、ブラジル大統領など、政策的に問題のある政治指導者とは会おうとしなかった。政策や意見が合わなくとも、いざという時のために、首脳レベルで直接働きかけを行なえるような最低限の個人的関係が構築されていることが望ましい。
また、このようなバイデンの頑なさと共に、あまりに率直な発言に、やや不安を覚えるところがあった。バイデンは、早々にウクライナに軍事介入をしないことを明言し、プーチンを戦争犯罪人と呼び、また、制裁が効果を生ずるのには時間がかかるなど、それらが事実であるにしても、外交駆け引き的な要素が少なく選択の余地を自ら狭めている印象もある。
バイデンは、プーチンの理不尽な侵略に対して米国自身が交渉する余地は無く、当面制裁強化一本やりということであろうが、そうであればこそ、実利を重視し民主的とは言えない第三国に対しては今後もう少し柔軟な対応に軌道修正し、少しでも対ロシア制裁への協力を求めることが望ましい。西側同盟以外の国々が制裁に参加せず協力しないということは、制裁の抜け穴が広がることを意味しかねない。ウクライナ後の中国対策においても同様であろう。