2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年3月11日

 ウクライナを巡る情勢が緊迫する中、ボルソナーロ・ブラジル大統領は、米国当局からの延期要請にも関わらず、侵攻開始の可能性があるとされた2月16日にモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談した。ウクライナについて会談で触れなかったにせよこの時期に二国間関係の強化につき会談することはブラジルがロシアの立場を支持したと見ざるを得ない。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が現実のものとなった後も、ボルソナーロは、ロシアを非難した副大統領を叱責したり、中立的な態度を取るとして対露制裁に加わらない考えを表明するなどした。

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 プーチンには、ラテンアメリカにおいて、米国に対抗する影響力を持つという長期的目標とウクライナを巡るロシアの立場に支援を得るとの短期的目標があると見られるが、当面の重点は、後者に置かれていると見られる。

 ロシアは、米国の伝統的友好国であるブラジル、アルゼンチンの両国首脳が続けて来訪し関係強化を打ち出したことで成果を上げたと思っているであろうが、両国首脳とも他の先進国首脳からはまともに相手にされない状況にあり、この地域でこれ以上に支持を拡大できるか疑問である。また、両国の期待は経済面であるが、ロシアがその期待に応えるとは思えない。

 ロシアは、2008年のグルジアを巡る紛争の際にもベネズエラに爆撃機の供与や軍艦の派遣を行っており、13年や18年のウクライナの分離主義勢力への支援を巡り欧米との関係が緊張した際にも爆撃機の派遣やベネズエラに空軍基地設置の意向を表明している。

 東欧を巡り対米関係が緊張する際には、米国の勢力圏と見なしているラテンアメリカで米国を牽制することが恒例となっているようである。しかし、ベネズエラなどにおいて米国の安全に脅威となるようなロシアの軍事展開が行われれば、米国としては経済制裁を更に強化するなどの対応を取ることとなり、他のラ米諸国にとってもそのようなリスクを冒して積極的にロシアとの軍事協力に応ずるかは疑問である。

 中長期的には、ロシアは、「専制のトロイカ」と称される3カ国(キューバ、ニカラグア、ベネズエラ)を核に、親ロシア反米同盟を形成したいところであろうが、最近の状況はこの3カ国がむしろ地域において孤立する傾向が見られている。チリのボリッチ次期大統領、ペルーのカステイージョ大統領、コロンビアの有力左派大統領候補ペトロが、国内配慮から次々と自分たちはこの3カ国とは一線を画する人権重視の民主主義国であるとして、特にベネズエラを批判する発言を繰り返しており、これに対しベネズエラのマドゥーロ大統領が「左翼の臆病者」と非難するに至っている。


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