2024年11月8日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年9月6日

 8月14日付英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、「米中は東南アジアで別々に軍事演習を実施」と題すメルセデス・ルール同紙シンガポール特派員の記事を掲げ、米国とインドネシアの陸軍共同訓練と同時期に中国とタイの空軍共同訓練が行われているのを解説している。

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 米中は東南アジアに影響力を強める中で、夫々インドネシアとタイで軍事演習を行った。中国は、8月14日に空軍共同訓練ファルコン・ストライク2022でタイに戦闘機を派遣した。この訓練は、米国とインドネシアが2週間行ったガルーダ・シールド年次実弾演習の終了と同時期だ。この米インドネシア共同訓練は2009年の開始以来最大で、今回、日本、豪州、シンガポールが初めて参加した。

 東南アジアでの共同訓練は、米中間の緊張が高まる中で行われた。8月のペロシ米下院議長の台湾訪問は中国を苛立たせた。同訪問は中国軍による度重なる恫喝戦術をもたらし、実弾演習や台湾封鎖のシミュレーションである水域・空域の閉鎖が行われた。

 米国は歴史的に東南アジアで強固な同盟関係と軍事的プレゼンスを有しているが、中国の経済的影響力は急速に強まっている。中国と幾つかの東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との領土紛争は、地域に緊張を生んでいる。

 米国と中国は、今後地域における軍事訓練を一層強化することで、戦略的な抑止を形成し、インド太平洋の中小国の支持を得ようとする可能性が高い。

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 合同軍事演習は、米国と中国の競争が激しさを増す中で、東南アジアが米中の影響力を巡る主戦場になることを示す一つの例である。

 中国はウクライナ戦争の教訓を受けた動きとして、アフリカとの関係強化やブラジル・ロシア・インド・中国(BRICS)などの既存の多数国間枠組みの拡大により、危機に際して孤立を避けるべく外交政策を調整している。これは、正に三十六計の「遠交近攻」の「遠交」とも言える動きであるが、その一方で、今回の記事は、「近攻」で何が起こっているのかを示すものの一つとも言える。

 まず、タイについて述べておきたい。従来からASEAN諸国は、米中の間の選択を迫らないで欲しい、と言いつつも、実際には各国が置かれた戦略環境などにより、選択してきており、いわば「踏み絵を踏まない分断」が起こっている。

 その中でタイは、日本外務省の世論調査によると、より頼りにする国が、政権によって、日本と中国の間をスイングする。正に今回、中国がタイを共同訓練の相手としたのは全くの偶然ではない。ファルコン・ストライクは中タイ間で 2015年以降行われている空軍共同訓練で、今回が5回目に当たる。

 一方、忘れてはならないのは、タイは1954年以来米国の条約上の同盟国だということである。東南アジア条約機構(SEATO)は解散したが、相互防衛義務を定めたマニラ条約は現在も米タイ間で有効である。その米国とタイは1982年から、東南アジア最大級の合同軍事演習であるコブラ・ゴールドを実施している。


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