「Wedge」2021年6月号に掲載され、好評を博した特集「押し寄せる中国の脅威 危機は海からやってくる」記事の内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(
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※年号、肩書、年齢は掲載当時のもの
中国は、東南アジアのマラッカ海峡の戦略的重要性を強く認識しており、対外進出を本格化させた21世紀に入ってからは二つの方策を試みてきた。
一つは、海上輸送路に代わるパイプラインや鉄道など新たな陸上輸送ルートの確保である。しかし、これらは現地政情の変化といった困難が付きまとう上、海上輸送路と比較すれば圧倒的な輸送量の低さと安全性確保の難しさがある。もう一つは、マラッカ海峡の周辺国に有形無形の影響力を高める戦略である。これは2010年代の「一帯一路」戦略の公式化につれて本格化し、各種の浸透工作が積極展開されていった。その鍵の一つとなったのが、華人を通じたアプローチである。
マラッカ海峡には三つの国家が存在する。スマトラ島を有するインドネシア、マレー半島のマレーシア、その南端にあって世界有数の貿易港である都市国家シンガポールである。見逃してはならないのは、中国にとっての3国との関係構築は、国情の差異から同じ方法では不可能であった点である。
まずインドネシアは、人口2億7000万以上を有する大国で、東南アジアの盟主としての自負を持つ。歴史的経緯から反華人感情や中国への警戒心も強い。実際問題としても、中国が一方的に主張する「九段線」とインドネシアの排他的経済水域が重複することで争いがある。しかし、14年に成立したジョコ・ウィドド政権は中国との関係強化を進め、高速鉄道計画で当初は中国を登用し、直近でも中国製の新型コロナウイルスワクチンを受け入れるなど、実利外交を展開している。