2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年5月13日

「日米中が如何に戦争を回避するか」とは…

 もう一つ注目すべき米中会談がある。米軍のトップであるデンプシー統合参謀本部議長が、中国人民解放軍の房峰輝総参謀長の招きに応じて4月21日から訪中し、習近平主席とも会談したのだ。これも異例の厚遇と言える。

 米中安全保障問題が協議されたのは当然として、中国政府関係者は「日米中が如何に戦争を回避するか」が話し合われたと言う。日本でも「地域の安全保障問題について意見交換した」と報道されたが、「日米中の戦争回避」と言えば、当然、尖閣問題だろう。日本抜きで、米中が尖閣問題の処理について協議したということだ。

 そもそもケリー国務長官にしろ、デンプシー統合参謀本部議長にしろ、米国にも中国と協議する必要が有ればこそ要請に応じて訪中している。米国も中国との戦争は避けたい。2006年には中国は米国の最大の輸入先となり、米国企業は中国市場で現在も世界平均を上回る莫大な収益を上げている。さらに中国の2013年3月末現在の外貨準備高は、3兆4400億ドルと世界最大となった。米国にとって、中国は敵対すべき相手ではないのだ。

 この米中接近を好ましく思わないのはロシアだろう。中国とロシアの関係は微妙だ。地域をロシア東部/北東アジアに絞って見ると、中ロは対立する場面が多い。ロシアは中国の影響力拡大に懸念を有する。中国側には領土に関して不満もある。しかし、グローバルな問題では中ロは共同歩調を採ることが多い。例えば、発展途上国の人権問題等に関して、中ロは明らかに欧米と異なるスタンスを採る。また、パワーバランスの上でも、中国はロシアを敵に回す訳にはいかない。四川地震に際して、各国の援助隊派遣の申し出を断る一方で、ロシアの援助隊だけ受け入れると表明したのは、ロシアに対する中国の「特別な関係」をアピールするシグナルであると言える。中国が、対米・対ロ関係のバランスを取ろうとしているということだろう。

日本の意図をどう反映させるか

 朝鮮半島問題は韓国と北朝鮮だけを見ても、尖閣問題も日本と中国だけを見ても、その行方は見えてこない。一歩引いて、米国と中国の意図を含めて理解することが重要だ。さらに、ロシアの影響もある。この大国関係に、日本の意図をどう反映させるかが問題なのだ。

 米国は一貫して、日本に冷静な対応を求め、中国との関係改善を要求している。日本では「中国へのけん制」ばかりが声高に叫ばれるが、日本が中国をけん制するだけで関係改善の努力を怠れば、米国の不安を掻き立てるだろう。また、米国には、日本がどこに向かうのか危惧する声もある。「戦後レジームからの脱却」というスローガンや「東京裁判の否定」が、先の大戦における敗戦を否定するものであれば、それは「反米」だと捉えられることにさえつながる。

 本来、各国との関係は、外交カードになるものだ。しかし、日中関係はここまで冷え込んでいる。ロシアは、日中首脳双方の訪問を受け入れたが、尖閣問題でどちらか一方を支持することはないだろう。こうした状況下で、日本の意図を反映するのは米国チャンネル以外にあるのだろうか? 日本が、東アジアに自らが望む状況を生み出せるよう米国との関係強化はもちろん、各国との関係構築を進めることを期待する。


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