2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年5月13日

 米中戦争の危険を孕むのは日中間だけではない。朝鮮半島だ。現在も北朝鮮が米国に対して挑発を続けている。万が一、北朝鮮が米国又はその同盟国を攻撃すれば、米国は間違いなく反撃する。北朝鮮が戦争状態になれば、同盟国であり「血の結束」を謳う中国は参戦せざるを得ない。米中戦争を回避するならば、北朝鮮を放棄しなければならない。いずれも中国が避けたい事態である。中国では「北朝鮮が米国を攻撃できるはずがない」と言われるが、可能性がある以上、米中戦争を避ける対策を講じなければならない。東アジアは、朝鮮半島と尖閣諸島という、米中戦争の危険をはらむ二つの問題を抱える地域なのだ。

中国が描く「新型大国関係」とは?

 4月13日、ケリー米国務長官が王毅中国外交部長の要請に応じて訪中し、王毅部長の他、習近平国家主席、李克強首相、楊潔篪国務委員らと相次いで会見した。国家主席自ら会見に応じたことは、中国の米国重視のシグナルであると言える。また、会談において習近平主席が使用した「新型大国関係」という言葉は興味深い。この「新型」が何を意味するかが問題だ。

 元々、米国と「大国関係を築く」と主張し始めたのは江沢民である。それから約20年、中国は、米中関係が新たな局面に入ったと認識したと考えられる。その言葉が、主として北朝鮮問題への対応を議論する会談で用いられたのだ。中国が、北朝鮮問題に関して、新たな米中協力関係が構築できると認識したと見るのが妥当だろう。

 この会談に先立つ4月12日、オバマ米大統領が初めて北朝鮮に自制を求める公式表明を行った。日本では「コリア・レポート」の辺真一氏をはじめ多くの方が「米国(及び韓国)が北朝鮮とチキンレースをしている」と表現されており、米国の対北朝鮮対話への動きは日本政府関係者等に「米韓がチキンレースを降りた」とも評された。

 しかし、実は米国にも中国にも、北朝鮮とチキンレースをしているという意識は無い。中国のテレビ番組で、ある研究者が北朝鮮外交を「当たり屋」外交と呼んだ。自ら当たっておきながら被害者だとわめき、金をせびるという意味だ。チキンレースでは相手と同等の立場だが、「当たり屋」と蔑む中国には、北朝鮮を対等の相手と見る意識はない。米国の北朝鮮に対する見方も似たようなものだろう。カーター米国防副長官が4月8日の講演で「北朝鮮問題に関して中国の役割に期待する」と述べたのも、米中が問題解決の主役だという意識のあらわれだろう。米国には、北朝鮮問題で、中国以外に有効なカードがないとも言えるが。

 一方で、米中接近は、北朝鮮にとっては恐怖だろう。中国が北朝鮮を見捨てる可能性を含むからだ。米国が軍事力をもって北朝鮮の挑発が無意味であることを見せつける一方で、米中会談は北朝鮮に対して心理的圧力をかけたのだ。


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