2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年5月20日

 誰も中国を封じ込めよとは言わないが、同盟国に安全を保障するなら、何らかの抑止は必要である。米国は航海の自由を主張しつつも、海洋紛争関与を避けている。

 太平洋に米国は、32万5千の兵員、空母、誘導ミサイル搭載駆逐艦、戦闘機・爆撃機編隊、潜水艦を展開している。これは信頼できる抑止力であるが、時と共に弱くなっている。アジア諸国は今日、米国の力を頼りになるとしているが、10年後には、米国が中国を牽制出来ず、今以上にリスク回避的になるのではないかと心配している。

 それでは、何が必要なのか。

 小国への圧力について中国に責任を問い、北朝鮮について国連決議以上のことをする勇気を持つことである。もし米国がアジアでの力の均衡維持に関心があるのなら、艦船を問題海域や重要な航路に送るべきだし、情報を同盟国と共有すべきである。更に日韓両国に協力するように圧力をかけるべきである。

 米国は、また、北朝鮮との意味のない交渉の停止や、金ファミリーの金融を標的にすることなどの外交措置をとるべきである。米国は中国の会社に制裁を課することを辞するべきでなく、ハッキングや「ならずもの政権」支援などの挑発に対しては、米中ハイ・レベル交渉の回数等の削減で応じるべきである。

 今の米国で防衛費増は政治的に不可能だろうが、だからこそ、既存の資産を使うやり方を変え、そのコミットメントが本物であることを示し、米国の力を使わなくて済む安全保障環境をアジアで作るべきである、と論じています。

 * * *

 このオースリンの論説は、アジアへの軸足移動を実態のあるものにすべきであり、装備面では予算的制約があり無理なので、アジア政策上の目的を対中対抗と対北朝鮮対抗であると明確にし、現在の資産を上手に使うべしと提唱したもので、大筋において適切な主張と評価出来る内容です。

 アジアへの軸足移動が、その目的や内容が不明確で、今や「疑われ、あざけられ、放棄されている」(doubted, derided and dismissed)とオースリンは書いていますが、アジアへの軸足移動が、ワシントンではその内容にコンセンサスがあるようなものではないことがうかがわれます。ケリー国務長官の考えと、ヒラリー・クリントンの考えには大きな差があるように思えます。

 オースリンがここで、いわば対中強硬論の立場から、アジアへの軸足移動の目的と内容の明確化の必要を論じていますが、良い問題提起です。

 米には、民主主義擁護という価値観重視外交が期待されます。そして、日中を同じような国家として取り扱うことは誤りであることを、ケリーは理解する必要があるように思われます。

 なお、米国は領土紛争非介入と言っていますが、北方領土問題では日本の国後、択捉返還要求を明確に支持しており、尖閣で非介入を言うのは、いささか一貫性に欠けると言わざるを得ません。

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