2022年12月8日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年10月9日

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冷泉彰彦 (れいぜい・あきひこ)

作家・ジャーナリスト

ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『「反米」日本の正体』(文春新書)など。メールマガジンJMM、Newsweek日本版公式ブログ連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

 岸田文雄首相は、10月3日衆院本会議での所信表明演説で、企業人のリスキング(学び直し)の支援に5年間で1兆円を投じると表明した。この点に関する首相の演説内容は以下の通りだ。

 「また、リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備や、年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行など、企業間、産業間での労働移動円滑化に向けた指針を、来年6月までに取りまとめます。特に、個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を、「5年間で1兆円」のパッケージに拡充します」

 この演説には重大な問題がある。大前提である、リスキングの定義が間違っているのだ。

(kazuma seki/gettyimages)

混同してはいけないリスキングとリカレント

 岸田首相は、リスキング支援と並んで「年功序列的な職能給からジョブ型の職務給への移行」を打ち出している。これは間違っていない。けれども、リスキングにより「企業間、産業間での労働移動の円滑化」を図るというのは誤っている。それはリスキング(再度という意味の re+スキル+ing)ではなく、リカレント(re+方向ぎめ)である。

 リスキングというのは、環境の変化に応じて従業員に求めるスキルが変化するのに合わせて、内部人材のスキルを即応させるために、実務レベルの従業員に思い切った教育研修の投資を行うことだ。典型的な例は、米国の電話会社が地上線による固定電話のビジネスから移動体通信ビジネスに転換していく際に起きたリスキングの事例である。

 中継局の管理に従事する膨大な中級技術職を、そのまま移動体通信の基地局のメンテナンス技術者に転換するために、各企業は膨大な教育投資を行った。その結果として、例えばベル・アトランティック社はベライゾン社へと社名と事業形態を変貌させつつ、膨大な人的資産を有効活用できたのである。

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