2023年2月6日(月)

定年バックパッカー海外放浪記

2022年10月30日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

4人に1人が1カ月3000円以下で暮らしているフィリピン

 フィリピンの統計をベースに計算すると総人口1億1000万人の24%は『1カ月1人当たり3000円以下』で暮らしているという。つまり4人に1人だ。政府の公式定義による貧困層は2021年統計では総人口の18%であり、ボンボン・マルコス大統領は大統領任期末の2028年には貧困層を総人口の9%とすることを目標に掲げている。

 2カ月弱のフィリピン旅行中ではスモーキーマウンテンのような貧民街や山岳地帯の限界集落のような貧困層だけが居住している地域には行っていない。普通のバックパッカー旅では縁がないし、そのような地域に外国人が単独で入るのは危険だからだ。それでも貧困層の暮らしの一部は垣間見ることができた。

ホステルの周辺の貧困層

 マニラの繁華街マカティー地区から地下鉄の駅で三つ目にあるユナイテッド・ネイション駅から大通りを7分ほど歩いたパコ地区にホステルがあった。ホステルの周囲はフツウの住宅街であったが、大通りを一本脇道に入ると路上生活者が何人も寝ていた。

この高架橋の下の中央分離帯にホームレスが寝ている@マニラ市マカティー地区

 彼らはゴミ捨て場で缶、瓶、金属などの資源ごみを分別していた。それを大きなズタ袋に入れてどこかに運んで、多少の小遣いを得ているようだった。ある少年のグループは街なかに捨てられている濡れた段ボールやボール紙などを拾い集めていた。人通りの少ない裏通りの歩道に広げて乾かしてから紐で縛って肩に担いで売りに行っていた。

 ある日夕刻雷雨で大雨が降ったら、ホステルの横の街路で少女たちがキャーキャー言いながら大喜びで髪の毛を洗い天然の水浴びをしていた。

フィリピンの市街地のフツウの光景

 マニラのマカティー地区は高級商業エリアであるが、高架橋下の中央分離帯には10メートルほどの間隔で路上生活者が寝ていた。かなりの騒音や排気ガスであるが雨に濡れないので住み着いているようだ。彼らは朝になると三々五々集まって紙ゴミや木っ端で焚火をして鍋でコメを炊いていた。

 どこの町でも商業施設の出入り口、横断歩道橋の橋の上や階段下、駅の出入り口の脇など至るところで座り込んでいるホームレスの姿が見られた。

ゴミ捨て場で資源ごみを選別している@セブシティー

バスターミナルのコミッション・ボーイ

 8月9日。ルソン島北東部のビガンから午後9時発のバスでマニラに向かった。早朝4時半マニラのパサイに到着。レガスピ行きのバスに乗るために他の会社のバスターミナルまで歩いて移動した。

 夜間の切符売場が分からず、近くの少年に聞くと彼は俺について来いとばかりに先に歩き出す。とっさにヤバいと直感。途上国では人を案内してチップを稼ぐことを生業にしている人間がどこにでもいる。暗闇で見分けられなかったが少年もチップ稼ぎ(commission boy)に違いない。

 慌てて「分かったから、もういいよ」と後ろから声をかけて追い抜いて夜間切符売り場に急行した。切符売り場で行き先や出発時刻を確認していると、先ほどの少年が放浪ジジイにチップを要求してきた。無視して追い払うと切符売り場の係員に何か訴えていたがそのうちに諦めて去っていった。

 宿の場所が分からなくて近くの男に道を聞くと、宿まで案内してから宿の人間に「俺が連れてきた客だ」とチップを要求するというケースもあった。「途上国では正業についていると明確に判断できる人間以外には道を聞いてはいけない」というのは放浪旅の大原則である。

コミッション・ボーイの元締めは太っちょオジサン

 バスの切符を購入してから出発まで4時間もテント下の待合所で時間をつぶすことになった。客を乗せたタクシーがバスターミナルに近づいてくると数人の少年がすかさずタクシーの屋根やドアに手をかけて走りながら運転手と乗客に話しかける。タクシーが止まると、一人の少年がタクシーのトランクに近寄り運転手がトランクを開けるとすかさず荷物を取り出す。もう一人の少年は乗客が持っていた荷物を持つ。こうしてターミナルの待合室まで荷物を運んでチップをもらっている。

 大型高級車に乗った家族が到着すると何人もの少年たちが先を争って車に駆け寄っていく。よくみるとこのバス会社のターミナル近辺で日銭稼ぎをしている少年は7~8人のようだ。そして彼らはこのバス乗り場を縄張りにしているようだ。元締めは太っちょのオヤジで彼はバス会社の係員たちや近隣の売店主などと昵懇のようだ。オヤジが少年たちを監督してみんなが稼げるように目を配っている。

 よく見ると少年たちの半分以上は携帯電話を持っておりスニーカーも放浪ジジイより余程ましなものを履いている。チップはサービス1回あたり10ペソ(=25円)が相場なので一日平均60ペソ、月に25日働いたとすれば1500ペソ(3800円)となるから貧困層ではなく下流市民階級なのだろうか。

バックオーライで日銭を稼ぐ男たち

 乗合自動車(jeepney)でパサイの中心地に行くには買い物客で溢れる狭い商店街を途中でUターンしなければならない箇所がある。対向車がある上に四輪車、三輪車、オートバイ、歩行者がそれぞれ我勝ちに走るのでUターンは至難の業である。しかも道幅が狭いのでUターンするには何度か切り返しが必要だ。

 乗合自動車は当局から許可を受けたルートを走らなければならないのでこの地点でUターンする乗合自動車が次から次に来る。筆者の乗った乗合自動車がUターンしようとバックすると、缶を叩いてバックオーライの合図を運転手に送っている男が周囲の歩行者やオートバイを制止して道を空けさせている。 なかなかの手際である。三回切り返してやっと難所を通過。運転手は男に10ペソを握らせていた。

 後続の乗合自動車にもすでに他の男が密着して運転手に話しかけている。この難所を数人の男たちが縄張りにして乗合自動車の便宜を図っているのだ。数分ごとに乗合自動車が来るので1人の男が1日に稼ぐのは10ペソ×50回=500ペソと仮定すると25日働いて毎月1万2500ペソ(=3万円超)の現金収入となる。マニラの警備員や家政婦の平均月給をはるかに上回るレベルだ。ここの縄張りの利権を握っている男たちは「下町の特権階級」である。

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