企画を担当したのはホームケアプロダクツ部商品企画チームの菅野智子(31歳)。商品化は、自走式ロボットに関する顧客アンケートがヒントになった。実際に購入した人は「ペットのように愛着が湧いてくる」といった感想が多かった。一方で未購入者からは、「硬くて重い」あるいは「高額で手が出しづらい」といった指摘が多かったという。
そこから菅野らは、「ペット感覚を出し、手軽に試してもらえる価格なら受け入れられるのではないか」と想定した。商品化が動き出したのは12年の初め。菅野は、「われわれが手掛ける家電と生活雑貨を融合させるようなもの」とイメージしながら、開発担当者と商品を具体化していった。
デスク回り用のモップなどに使われているマイクロファイバー繊維を活用したのは、ゴミを取る機能とともに、カラフルで柔らかな造形が両立できるからだった。また、「自走しやすく、ゴミを取るために繊維の表面積を大きくする狙い」から本体は球体とする方針が決まった。モーターやおもしを使った自走機構そのものは、比較的短期で完成したという。
予想以上に苦労したのはマイクロファイバー繊維の素材選択や縫製方式など、カバーの製作だった。繊維は細く、長いものにするとゴミを取りやすいが、転がりが悪くなる。細さと長さの異なる約30種の繊維を比較検討して、清掃能力やデザイン性で最適なものを絞り込んでいった。繊維の長さは約1.5センチが最良だった。
球体に仕上げるための生地の裁断や縫製も試行錯誤しながら詰めた。転がる際の抵抗が少なく、縫製のしやすさから、硬式野球ボールと同じつくり方を採用した。ひょうたん状の2枚の生地を組み合わせるものだ。また、カバーの開口部は当初、ファスナーで閉じる方式としたものの、これもごわついて転がりに影響した。このため、薄いゴムバンドをカバーに縫い合わせ、ややルーズに閉じるようにした。
「どこに売ればよいのか?」
困惑した営業部門
こうして完成に至ったものの、菅野らは売れ行きに「確たる自信はもてない」状況だったし、営業部門からは「これはどこで扱ってもらえるだろう」と、流通ルートの選定にすら戸惑う声も出た。
しかし、メディア向けに発表すると、そうした不安は杞憂に終わった。当初予定していたネット通販や雑貨ショップだけでなく、大手の家電量販店からも引き合いが寄せられ、この量販店向けにカスタマイズした製品も共同開発するに至っている。