2022年11月28日(月)

BBC News

2022年11月2日

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ジョナサン・ヘッド、テッサ・ウォン、BBCニュース(ソウル)

韓国・ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)の狭い路地に人々が密集し、多数の死者が出た事故で、発生の数時間前に警察に最初の通報が入っていたことが明らかになった。しかし警察は、手に負えないほどの群衆が殺到するのを阻止するための対応をほとんど取っていなかったという。

警察への最初の通報は、転倒事故が発生する数時間前の10月29日午後6時34分に入った。

梨泰院のメインストリートにいた通報者は、ハミルトンホテル横の路地が危険なほど混雑していると伝えた。

通報者は、「あの路地はいま本当に危険な状態だ。人が(坂を)上がったり下ったりしているので、降りてこられない人がいる。それなのに次々に人が入ってきて押しつぶされそう。私はかろうじて脱出できたけど人が多すぎる。(警察が)規制を敷くべきだと思う」と訴えた。

警察は通報者に対し、人の流れが滞り「押しつぶされて転び、大事故がおきる」という意味で言っているのかと尋ねた。

通報者は、そうだと答えた。「いま、恐ろしい思いをしている」。

これが最初の通報だった。それから3時間の間に、最初の通報を合わせて少なくとも10件の通報が警察に寄せられた。しかし地元住民は、あの晩の警察の配備は全く不十分だったと証言している。

警察の不手際が明らかに

次々とあがる証拠や専門家、そして一連の公式謝罪は、警察に明らかな不手際があったことを示している。地元当局と警察は集まった群衆に対処する準備ができていなかったため、すでに押し寄せた人々を統制するのに苦労した。

警察庁の尹熙根(ユン・ヒグン)長官は11月1日、緊急時の対応が「不適切」だったと述べた。当局が、事故防止の取り組みが不十分だったと認めたのは初めてだった。

人気の繁華街である梨泰院には事故当日、ハロウィーンを祝うために数十万人が押し寄せたとの推計もある。このエリアは普段からにぎやかだが、それでも驚くほどの人出だった。

チョン・アンスクさんは梨泰院のメインストリートから2区画、現場から300メートルほどの場所で暮らしている。チョンさんはあの日、午後9時から10時ごろに外出しようとしたが、通りが大混雑していて身動きが取れなかったという。結局、怖くなって自宅に引き返した。

午後10時に帰宅したというレストラン経営者は、あまりの混雑で梨泰院駅から出ることすらできなかったという。そのため別の駅へ向かい、遠回りして自宅に戻ったという。

犠牲者のための仮設の祭壇に供える花を売っていた両替商の女性は、事故当日、警官の姿をほとんど見かけなかったと語った。群衆を統制しようとしていたのは警官ではなく地元のボランティアたちだったという。

また、地元の事業団体が先週、ハロウィーンの週末の群衆対応について警察に助けを要請していたものの対応してもらえなかったのだと、女性は話した。

雑踏警備に関する話し合いなく

梨泰院がある龍山区の議会では2つの会合が開かれていたことを、私たちは確認している。1回目は10月26日に地元警察や地元地下鉄の駅長、地元の事業団体と行われた。その翌日には、週末のハロウィーンのお祭りへの対処方法について議会スタッフのみでの会合が行われた。

龍山区のホームページによると、新型コロナウイルスの隔離措置や屋台の検査、大規模会場や地下鉄駅の安全性、ごみの回収、違法駐車などについて話し合った。朴熙英(パク・ヒヨン)区長は10月27日、「3年ぶりに社会的距離を置かないハロウィーンを迎える。新型ウイルス感染症COVID-19の再拡大や麻薬事件、そのほかの事故への懸念がある中、住民の安全確保のために全力を尽くす」と述べていた。

いずれの会合でも、雑踏警備が必要となる可能性が提起されたり、話し合われたことを示す証拠はない。

複数の地元企業はBBCに対し、10月上旬に開催されたグローバルヴィレッジフェスティバルでは、雑踏警備計画が準備されていたと語った。この催しを主催したのは区議会だった。

しかし今回の事故後、朴区長は、龍山区の議会はできることをすべてやったが、ハロウィーンの集まりは特定の主催者がいなかったため他のイベントとは勝手が違ったと、地元メディアに語った。区長はその後、犠牲者とその家族に謝罪している。

ドミノ倒しは「ほぼ防ぎようがない」

関係者の間で責任のなすりあいが続いているが、あの晩、10代から20代を中心とした数百人が傾斜した路地に集まるのを誰も止められなかったという事実は変わらない。いったんこうなってしまうと、その後に起きることはほぼ防ぎようがないと、複数の専門家は指摘する。

狭い路地では人々は逃げ場を失い、傾斜があることで数人が転倒すればドミノ倒しが起きる。群衆は押し合いへし合いから逃れようと、同時に異なる方向へ移動しようとしていた。

事故をめぐっては、群衆の一部が「押せ、押せ」と叫び、事故を誘発したとの話が浮上しており、警察が調査している。専門家たちは、大勢が密集した「異常な群衆」ではそうした声掛けは予想されることだと指摘する。

防火防災が専門のオープンサイバー大学のペク・スンジュ教授によると、1平方メートルに5人以上が密集すると潜在的に危険な状況だと考えられるなか、今回の事故現場では1平方メートルに少なくとも10人がいたという。ペク教授は画像や動画をもとに人数を推定した。

「本能的にこのような状況下では、人々が助け合うことはなく、われ先にと行動し、命令には従わない。(中略)極度のプレッシャーの中で他人を押した若者を非難することはできない」と、同教授は述べた。「群衆を事前にコントロールできなかった当局に責任がある」。

現場の規制は

関係者や専門家はあの路地に多くの人が押し寄せた理由の一つとして、利用者の多い地下鉄・梨泰院駅に近いことをあげている。

忠北大学災害安全革新センターの責任者クォン・セオラ氏は、当局が地下鉄を梨泰院駅に停車しないように運行させたり、一帯への車両の進入を禁止して歩行者用のスペースを増やしたりできたと示唆している。

しかし関係者たちは警備面での失敗を互いに責め合っている。国家警察はソウル地下鉄に対し、29日の混雑を抑制するために梨泰院駅に列車を停車させないよう要請したとしている。地下鉄側はこれを否定し、致命的な転倒事故が起きてから1時間後にしか正式な要請を受けなかったと主張している。

龍山警察はまた、地元企業は来客数が減らないよう、週末に混雑を抑制しないよう求めてきたとしている。地元のビジネス団体はこれを否定している。

ただ、警察が他の場所で見られるような簡単な雑踏警備すら敷いていなかったことは明白なようだ。

死者が出る数時間前に警察に寄せられた最初の通報内容から、事態の深刻さがうかがえたにもかかわらず、十分な対応が取られることはなかった。

「いま誰も現場をコントロールできていない」と、通報者は訴えた。「警察がコントロールすべきだ。まず人を外に出してからほかの人たちを入れるべきだ。人が次々なだれ込んできて外に出られない」。

追加取材:ユミ・キム、ジョンミン・チョイ

(英語記事 Korean police were called hours before deadly crush

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63481141

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