2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2013年5月29日

――それだけ「自明」なのに、なぜ国は裁判で闘ったのでしょう?

佐藤:13万人を超える人々を、選挙人名簿に載せる作業を、総務省が面倒に思ったからではないですかね。

――えっ、そんな馬鹿げた理由なんですか?

佐藤:相手の立場に立ってもそれくらいしか思いつかないんです。

 国は、選挙をするにはそれにふさわしい能力が必要だ、選挙のたびに個別に能力を審査するのは実務上難しいから、成年後見制度を「借用」するのは合理性がある、と主張しました。

 しかし、こんな馬鹿げた話はありません。成年後見は、自らの財産を管理できるかどうかという物差しで、本人の判断能力の程度を家庭裁判所が審査しています。これは選挙権を行使するに足る能力とは明らかに異なる、と東京地裁の判決では明確に否定されました。当然です。「借用」なんて論理的に成立するわけがありません。

 成年後見人が付いた人(被後見人)に選挙権を与えると、他人に影響され不正投票につながる危険性があるという主張もありました。たしかにそれは問題ですが、だからといって憲法で平等に与えることが保障されている選挙権を奪う、「やむを得ない」理由にはなりません。これも判決で明確に否定されました。

 世界的に見ても、選挙権の制限と成年後見制度を結び付けている国は少なくなっています。選挙権を制限している国がないわけではありませんが、その場合は、選挙権を行使するに足るかどうかを審査する仕組みを作り、しかも極めて限定的に解釈、運用しています。日本のように、自動的に選挙権を剥奪するという乱暴な話はあり得ないんです。

 原告の名児耶匠さんの後見人である父親の清吉さんは、国側がこの程度の立論しかできなかったことに、「この程度の理屈で娘の権利が奪われていたのかと思うと怒りを覚える」とおっしゃっていました。この怒りは当然です。国が実は「何も考えていなかった」というようなことですから。

――となると、東京地裁の違憲判決後に、国が控訴したのは、さらにわけがわからないですね。

佐藤:控訴せず、違憲判決が確定しても、国会が制度改正をいつ行うかわからない。となると「空白期間」が生じてしまう。地方の選挙にも影響するから、各地の選挙管理委員会など現場の選挙事務が混乱する、という報道でしたね。総務大臣も「全国各地の地方選挙の混乱を回避しなければならない」と説明したそうですから。情けない話です。


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