
「食は命」「食べものは安さ・便利さだけで選ばない」「子供には本物の味を」……。
開店前の午前10時。群馬県高崎市にある「スーパーまるおか」に入店すると、至る所に貼られた〝紙〟が目に飛び込んできた。店内には大型店やコンビニで広く扱われているナショナルブランド(NB)の商品は見当たらない。冷凍食品から調味料、飲料、お菓子に至るまで、初めて見る商品ばかりだ。野菜や果物、肉、魚も色艶がいい。
「全国各地の生産者を行脚し、選りすぐりの〝おいしいもの〟だけを集めるうちに、NB商品が一切無くなってしまいました」
案内してくれた社長の丸岡守さんはこう話す。関係者から〝奇跡のスーパー〟と評される「まるおか」。そこにはどんな経営哲学や流儀があるのか。
戦後、消費先進国米国から日本に輸入され、全国へと急速に広がったスーパーマーケット。だが、その多くの経営手法は共通している。「安売り」だ。
「大型店は大量生産された商品をまとめて仕入れ、1円でも安く売ることばかりを追い求めています」と丸岡さんは言う。一方、まるおかは「おいしいものだけを売る」というスローガンを掲げ、異彩を放つ存在である。
まるおかが現在の場所に移転オープンしたのは2015年。隣には、6万平方㍍を超える巨大ショッピングモール「イオン」がある。対して、まるおかの売り場面積は145坪。大兵と小兵の戦いだ。
当時、誰もがこの場所に店を構えることに反対した。だが、丸岡さんは「イオンさんができないことで勝負しよう」と決意。努力は実を結び、開店から7年たった今も客数は年々増え続けている。平均客単価は一般的なスーパーが約2000円とされる中、4000円以上を実現。県外からの来店者も多く、全国から同業者の視察依頼も絶えない。その数は年間30件を超える。
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バブル崩壊以降、日本の物価と賃金は低迷し続けている。この間、企業は“安値競争”を繰り広げ、「良いものを安く売る」努力に傾倒した。しかし、安易な価格競争は誰も幸せにしない。価値あるものには適正な値決めが必要だ。お茶の間にも浸透した“安いニッポン”─。脱却のヒントを“価値を生み出す現場”から探ろう。