「良いものをより安く売る」
日本社会で頻繁に取り上げられるこのフレーズを聞くたびに、私は「これは正しい日本語なのか?」と考えてしまう。本来、良い原材料を使い、従業員が手間暇をかけてつくっている良いものは、適正な価格があって然るべきだ。
しかし、日本では「安さ=正義」とばかりに、そのことがあまりにも軽んじられている。
収入が限られる中、より安いものを選ぶという消費者心理は分からなくもない。だが、無理な価格設定の背景では、誰かが必ず〝犠牲〟になっていることを忘れてはならない。
本来、企業経営の目的は、その企業に関わる全ての人々の幸せの追求・実現である。適正な値決めをすれば、従業員に適正な賃金を支払い、福利厚生も充実させることができる。そして、適正価格は、生産者はもとより、販売者・物流業者・顧客などを含めた関係する全ての人々(=関係者)が、企業活動を通じて、幸せや喜びを実感できるものでなくてはいけない。
価格とは、企業経営の命・根幹であり、良心でもある。したがって、価格決定権は本来、企業側にあるが、日本ではその当たり前のことが困難な情勢になっている。
私はその要因を探るべく、2016年に全国の約1000社の中小企業を対象にして「貴社の競争力は価格か、非価格か」というアンケート調査を実施したことがある。その結果、自社の競争力が「価格である」と答えた企業の割合は81.1%、「非価格である」と答えた企業は18.9%であった。
非価格競争は一朝一夕には実現できない
価格の安さを売りにしている企業が8割を超える結果に私自身、驚いたとともに、この傾向は現在でもほとんど変わらないと考えている。
価格の安さをセールスポイントとした経営では、……
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