その後、学校にはなかった充実感を覚えつつも、ささいなことから仕事に行けなくなった。高校進学後、自分の居場所が欲しいと暴走族に入り、ただの時間つぶしのつもりが次第にエスカレートしていった。ある事件を起して保護観察処分となり、その期間中に再度事件を起して「水府学院」へ。ほんの半年くらいの間に起きた変化である。
そして中学時代、被災地の瓦礫撤去作業中に見た自衛隊の姿が、いま彼の社会復帰を支える希望になっている。
「個人別教育目標」の達成に向けて
―個人別教育目標については「ルポ・少年院の子どもたち~「気づき」を与える少年院の矯正教育「外の目」の理解の必要性」に記してあります。―
少年ごとに鑑別所から処遇の方針が伝えられ、それに基づき少年院では「個人別教育目標」が立てられる。
仮退院、社会復帰へと導くためのプランであり、A少年の場合は、11.5カ月間で以下の3つの教育目標を達成させることになっている。
A少年の個人別教育目標と導入部分のステップ。(詳細は省略します)
1.「非行に対する抵抗感を高め、非行断絶の決意を固めさせる」
非行少年は共感性が低く、初期段階では被害者のことに触れても理解できないため、非行をすることによって自分にどんなデメリットがあるのか。非行は加害者の家族にとっても悪影響を及ぼすことを学ばせる。
段階ごとに小さなステップを上がりながら、被害者のことを理解し、非行が自他に与える影響や害悪について考えさせる。
2.「自己効力感を高め健全な生活思考を身につけさせる」
自己効力感とは、「自分には出来る」という自分自身に対する自信や期待感ということである。非行少年は学校、勉強、部活動など長続きせずに諦めがちである。
そこで、与えられた課題や課業に地道に取り組ませ、結果よりも、取り組むこと、継続することの大切さを学ばせる。
段階ごとに小さなステップを上がりながら、忍耐力、継続力を養い、困難なことにも主体的に取り組み、周囲に認められる行動ができるよう学ばせる。
3.「父親としての自覚を持たせ堅実な生活設計を具体化させる」
命の大切さや、父親の役割とは何かを考えさせ、父親としての責任感と自覚を持たせる。