2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年6月7日

 近いうちに海軍の能力強化がなければ、豪州は、同盟の価値の方を強調することとなるかもしれない。豪州の飛行場を経由した米国の爆撃機のローテーションが増えるであろうし、その次は、豪州のインド洋沿岸への米海軍のアクセス増ということになるかもしれない。

 しかし、これら全ての潜在的不確実性は、豪州人自身の考えの中に存在するのかもしれない。

 ロウィー研究所の世論調査によれば、55%が国内に米国の基地があることに好意的だが、こうした基地が「アジアの世紀」という考えとは異なる行動に使われるとなった場合に、豪州人がどのように感じるのか、誰にも分からない。白書は、豪州の安全保障に関する不確実性を解決したというよりも、今後数年、これを取り扱うのがいかに難しくなるかを明確にした。

 * * *

 メドカーフは、これまで、ラッド政権の安保政策を厳しく批判してきました。今回の国防白書についても、距離を置いて論じている感があります。

 豪政府は、新しい国防白書は、1月23日に発表されたNational Security Strategy(国家安全保障戦略) と、昨年10月28日に発表されたAustralia in the Asian Century White Paper (豪アジア白書)を補完するものと位置づけ、これらの3つの文書は、豪政府が、豪州の安全保障、繁栄、そして豪州軍の強さを維持するための、一体的なものと見なされるべきである、としています。

 豪アジア白書は、経済、文化の面ばかり取り上げて、軍事的側面を閑却するものでした。そして、今回の白書は、それを補完するものというよりも、メドカーフが指摘するように、繁栄するアジアの世紀という楽天的な物語の上に成り立っています。

 白書は、良好な米中関係がインド太平洋の安定と繁栄の鍵としていますが、それを達成する手段について説得力のある方策を示しているわけではありません。中国の台頭についても、歓迎するとだけ言って、脅威については触れていません。中国の脅威からは極力目をそらそうとしているようにも見え、全体として許容的な態度で論じています。

 2007年ケヴィン・ラッド首相が登場した時は、労働党でもあり、中国専門家でもあったので、対中傾斜が憂慮されましたが、ラッドは、中国専門家として中国問題の本質をよく理解し、現実的な路線を敷きました。それに対して後任のギラードは、少なくとも表現の上では、リベラル親中路線をとり、したがって、豪州の国防政策も停滞しています。今回の白書もそれを反映したリベラル親中路線の影響が強いようであり、それをメドカーフが咎めているわけです。

 親中リベラルと中国包囲網派の対立は、米国、インドを始めとして世界中の国の外交路線の対立点となっています。むしろ、日本は、安倍政権の成立と尖閣における中国の傍若無人な行動への反発によって、一番しっかりしていると言える状況です。

 この保守とリベラルの対立は、近年の世界各国の政治における主要潮流であり、今後ともこの種の対立は続くのでしょう。しかし、中国国力の興隆とそれが周辺に及ぼす脅威は、21世紀社会の最大の問題であり、中国の力の増大が続く限りは、結局は、それに対抗する保守現実路線が強くなることは避けがたい趨勢であると思われます。恐らくは、それは近く行われる豪州の政権交代でも表れることになるでしょう。

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