徴兵制を停止したことで、社会福祉施設などに余波が及ぶ懸念が出たのは言うまでもない。非軍事役務も停止されることになったからだ。放っておけば各施設でのボランティアが不足する。そこでドイツでは「連邦ボランティア役務制度」を新しく導入。義務教育を修了した男女に原則1年のボランティアを義務付けた。
平和国家のイメージが強いスイスにも徴兵制があるがその内容は大きく変わってきている。「国民皆兵」という建前で、男子は20歳から36歳までの間、合計260日の兵役に就く義務がある。そんなスイスでも、良心的兵役拒否が認められている。やはり軍事的役務の代わりに介護や医療現場でのボランティアに就くのが中心だ。
国民皆兵のスイスでは男子は仕事上の上下関係とは別に軍隊での階級の上下が存在する。企業によっては軍隊の上下関係が入社や出世に影響するところもある、と言われる。日頃は普通のビジネスマンとして働いている人も、一朝事あれば軍人に変わるのだが、軍隊でどんな役割を担っているかは、公言してはいけないことになっている。
かつてスイス駐在時代に知り合い仲良くなったスイス人にこっそり軍隊での役務を聞いたことがある。彼は高級士官で、危機が生じた時に市民がパニックに陥るのを防ぐ部隊の指揮官だった。シェルター内に避難した人たちに平静を保たせる方法などを研究・訓練するのが徴兵期間の「訓練内容」だということだった。徴兵というと、小銃を担いで戦闘訓練を行うことばかりがイメージされがちだが、スイスでは様々な危機を想定したうえで、国民に様々な役割分担を与えているわけだ。
さて日本。わが国も徴兵制を導入すべきだという人から、自衛隊は違憲だとする人まで、考え方にはかなりの幅がある。だが、東日本大震災に見舞われた被災地での自衛隊の活躍には誰も異を唱えないに違いない。実際、日本では災害救助を自衛隊抜きで考えることはできなくなっている。また、被災地には手弁当のボランティアが全国から大勢集まった。NPOなどのボランティア組織もこうした人たちを束ねる役割を果たした。
相対的に高い若年層失業者を吸収する策
だが一方で、自衛隊の災害派遣は国土防衛という軍隊の本務とは違うという意見もある。ボランティアにしても、災害が起きてから自発的に集まるのでは力を発揮するまでに時間がかかるという問題点も指摘されている。今後も天災に見舞われる可能性が高い日本にあって、災害救助の体制やボランティアのあり方をきちんと議論しておくことは不可欠だろう。これは自衛隊のあり方とも密接にからむ。