ここで重要なのは、これらの環境銀行は人々の善意の寄付を集めて活動しているわけではなく、通常の銀行ビジネスとして成功している点です。実は途上国の環境関係のビジネスは、マーケットが若いことや地域で金融を活用する機会が少ないこともあり、投融資をすると、かなりの収益が上げられるのです。特に、リーマン・ショックで一般的な銀行が苦戦を強いられる中、これら環境銀行は一般の銀行とは異なる分野への投融資をおこなってきたため、ここ10年間、収益はむしろ一般銀行よりも安定しています。
――日本の環境銀行はどうでしょうか?
藤井氏:日本では新しい銀行を作りにくいという金融行政上の問題もあり、環境に特化した銀行はつくれていません。強いて言えば、滋賀銀行が1998年の金融危機の頃からエコローンなどを先駆的に取り扱っています。滋賀県は立地的に阪神間のベッドタウンで銀行同士の競争も激しい。県内の資金需要だけでは限界があるので、ライバルである他の地銀や、メガバンクに負けないためにも、環境を独自の売り物とした面もあると思います。
――日本で環境銀行をつくることは難しいのでしょうか?
藤井氏:たとえばゴミの分別にしても、日本人は場合によってはオランダ人よりも環境に対する意識は高いともいえます。環境問題は国民の意識に定着していますし、関連する商品・サービスの市場化はしやすいとも言えます。
ところが問題は政府の規制にあります。規制が厳しいのではなく、規制が不十分ということです。有害物質の排出を抑制する規制はありますが、環境マインドを高め、市場化していくような規制がない。そのためには環境省を始めとした役所の体質改善が必須です。補助金行政ではなく、民間の知恵と資金を使い、政策効果を効率的に高めるための法的規制をつくるか。
――つまり民と官のパートーナーシップが重要だと。最後にどんな方に読んで欲しいですか?
藤井氏:金融に関わる人、役所や政治家も含め政策立案に関わる人ですね。国の財政が現在のような厳しい状況では、財政だけでは成長戦略を描けない。いかに市場の力を使い新しい分野にお金を投じ成長させていくかが重要です。
また金融は身近な問題ですので、一般の方にも読んでもらいたい。金融機関の環境行動を後押しするのは、一般預金者であり個人投資家です。一見すると堅そうな装丁ですが、事例も豊富ですし、是非手にとっていただきたいですね。
藤井良広(ふじい・よしひろ)
1949年兵庫県生まれ。1972年大阪市立大学経済学部卒業、日本経済新聞社に入社。欧州総局ロンドン駐在記者、オックスフォード大客員研究員、経済部編集委員などを歴任。主に金融問題を担当。2006年、上智大学環境大学院(地球環境学研究科)教授に就任。専門は環境金融論、CSR金融論、EU環境論。主な著書に『金融NPO』(岩波新書、2007年)、主な編著に『環境債務の実務』(中央経済社、2008年)など。
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