栃木スタッフの活躍の場は、80年の歴史を持ち、70年間エアコンを作り続けて来た工場だ。最新設備並みの効率を、人の経験と熱意で出している。新工場は、気持ちもよく、効率もいいが、今までの結果の寄せ集めのようなところがある。しかし、結果だけを追うと汎用性に劣る。一方で、設備が古くても、人がフレキシブルに対応することで、さまざまなモデルに対応することができる。
技能五輪による技術継承
栃木事業所は、技術五輪にも参加している。昔は、エアコン以外の家電事業会社日立グローバルライフソリューションでも参加していたが、中止したそうだ。技能五輪全国大会は、青年技能者の技能レベルの日本一を競う技能競技大会。その目的は、次代を担う青年技能者に努力目標を与えるとともに、大会開催地域の若年者に優れた技能を身近にふれる機会を提供するなど、 技能の重要性、必要性をアピールし、技能尊重機運の醸成を図ることにおかれているとされている。
具体的にいうと、ヤスリがけの工具、旋盤などの加工機械を精度よく操る技能だ。優勝レベルは±1000分の1ミリ。実用的には10分の1ミリレベルでいいので、どれほどすごいのかが分かる。
これに挑戦しているのは、高卒入社の3人の若者。師は藤田信夫さん。技能優勝経験のある金型のプロで、「令和4年度 卓越した技能者」も受賞している。
特訓は古い建屋で行われていた。昔ながらの徒弟制度さながらだ。今の時代、設計上はここまでの精度を求められない。しかし、これほどの技術を持っていると、見えるものが違ってくる。普通の人が気付かないことが、見えてくるのだ。師の藤田さんも役割上、金型の設計はしないものの、不備の指摘、提案はするそうだ。当然、コストダウンなどにも貢献している。
ただこの人間技を極めることは、効率だけからいうと、否定的になるかもしれない。しかし、得難い経験であることも事実だ。
技能五輪、止めることは簡単だ。しかし、一度止めると再度対応することはできない。技術継承は、継続するに難しく、止めるに易いのだ。「師」「弟」双方あってのお話、どちらが欠けても成り立たない。会社としても、BCP(事業継続計画)の一貫としてとらえているそうだ。
未来を得るのは、経済か、人か
今の世の中、効率優先だ。しかし、栃木事業所は、かなり「人」よりだった。だからすごいというわけではないが、リストラ流行りで「人」が注目されなくなった今、栃木事業所のようなあり方は、重要だ。人の世は、やはり人がポイントなのだから。