NASAの監察役であるポール・マーティン氏は米議会で「アルテミス・ワンによるロケット打ち上げは、それぞれのプロジェクト1回あたりのコストが410億ドルに膨らんでいる。これはサスティナブルとは言えない」と証言した。2012年にSLS開発が発表された時点では、NASAによる試算で1回の打ち上げコストはわずか5億ドル、とされていた。
マーティン氏は特にボーイングに対し「困難なミッションであるのは理解できるが、ボーイング側のコントラクターとしてのパフォーマンスは十分とは言えなかった。計画性も仕上げ段階も非常にお粗末だった」と酷評した。さらにNASAに対しても「複数の計画を進行させるプロジェクトマネジメントが機能していない」と指摘。この巨額の資金が税金から支払われていることを考えると、今後の計画が暗礁に乗り上げる可能性も否めない。
22年だけで50回以上打ち上げを成功させたスペースX
その一方で、スペースXは先述した11日も含めて、22年だけで50回以上打ち上げを成功させている。9日には、23年に予定されている、月周回プロジェクト「dearMoon PROJECT」に参加するメンバーが、前澤友作氏から発表された。ここで使用される有人宇宙船「スターシップ」もスペースXによって開発される。
このスターシップもスケジュールの遅れが続いているものの、もし成功させることができれば国家プロジェクトよりも先に民間が月周回旅行を実現させる、という事態も起きかねない。さらにはジェフ・ベゾス氏のブルー・オリジンも、21年にスペースXよりも先に民間の宇宙旅行を成功させた。こちらも今後月旅行を目指す、としている。
米国としては国として宇宙開発がロシア、中国の後塵を拝する状態をなんとかしたい。トランプ政権時代には軍の組織としてスペース・フォースも新設された。しかし、「お上頼み」でやってきた米国の宇宙航空産業は、客観的に見て民間よりも遅れを取る形になりつつある。