2024年12月22日(日)

From LA

2022年8月18日

 アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)とは、他人種国家である米国のような社会で、人種の人口に対する比率と実際の学業の場や職場などの人種比率をなるべく近づけることを目的としている。米国で成立したのは1960年代で、主に白人中心だった社会の中に黒人やヒスパニック、アジア系などが活躍できる場を作り出すことが目的だった。

(milindri/gettyimages)

 しかし今アファーマティブ・アクションを継続すべきかどうか、米国内でも意見が分かれている。一つのきっかけとなったのが、アジア系学生らがハーバード大学などを相手に起こした訴訟だ。それによると「アジア系が不当に入学差別を受けている」という。

 最新の国勢調査によると、米国の人口は白人が57.8%、ヒスパニック系が18.7%、黒人が12.4%、アジア系が6%である。しかし米国の高校の成績優秀者に占める割合ではアジア系が突出して高い。そのため有名大学にアジア系が入学するには熾烈な競争を強いられる、という。

 実際ある調査では「もし成績だけを基準に入学者を決めた場合、米国のトップ大学のほとんどが4~5割程度アジア系の学生になる」としている。また多くの大学が実際には6%を遥かに超える割合でアジア系の学生を入学させているのも事実だ。それでもアジア系住民からは不満の声が絶えない。アファーマティブ・アクションで最も恩恵を受けているのは言うまでもなく黒人とヒスパニック系だ。

 米最高裁は今年10月31日にハーバードとノースカロライナ大学について、入試の選択基準に人種を入れるべきかどうかについての審議を開催する予定だが、保守系が主流を占める現在の最高裁では長く続いたアファーマティブ・アクションに終止符が打たれる可能性も指摘されている。

 ただし、アファーマティブ・アクションの廃止反対の根強い意見もある。各大学は「多様性を保つためには、アファーマティブ・アクションは必要だ」と訴える。人種混淆社会において、多様性とは互いの違いを認め合い、議論しあい、理解を深めると共に、これまでにない新しいアイデアを生み出す原動力となる、と考えられているためだ。

軍、大企業の反応

 大企業、軍隊の一部もアファーマティブ・アクション存続に賛成の立場だ。ハーバード大などが呼びかけた、最高裁の審議前の意見書提出の呼びかけに対し、アップル、グーグルなどが実際に意見書を提出している。

 まず軍隊の立場からだが、元米軍高官らおよそ12人が意見書を提出したが、アファーマティブ・アクションに賛成の理由は「一つの人種が独占的に司令塔の立場である軍隊の元では、人種的多様性を持つ隊の中でいわれなき差別や暴力などがはびこることは歴史的に証明されている。一方で軍のあらゆる階層に多様性をもたせることで、隊全体のレベルが向上し協調性や効率の良い部隊が作り出される」という。

 つまり司令官以上のランクに白人以外の人種がつき、多様性ある部隊を率いることで全体としての士気が上がり、より良い部隊となる、というのがその理由だ。

 また80社以上のテクノロジー企業が連盟で出した意見書には、アップル、グーグルの他メタ、ウーバー、ピンタレストなどが名を連ねるが、そこでも「企業が採用を行う大きな源である大学で多様性が失われることは、企業内の多様性が失われることに等しい」とアファーマティブ・アクションの継続が求められている。

 「(大学から高い教育を受けた多様性のある人種を採用すること)によってのみ、米国は現代の経済のニーズに応えられる将来の働き手やビジネスリーダーを育てるパイプラインを生み出すことができる」というのが意見書の骨子である。

 米国のような多様性社会では、人種グループごとに異なる要望があり、ニーズが存在する。もし白人やアジア系のエリートのみが職場を構成すれば、マイノリティが持つニーズを見落とし、彼らから支持されない製品を生み出してしまう可能性がある。それがひいては社会の中の軋轢につながりかねない。グローバル企業としての立場から、職場に多様性を維持することは是非とも必要である、と多くの大企業は考えている。


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