米国航空宇宙局(NASA)が50年ぶりに再開した月面探索プロジェクト「アルテミス・ワン」は、有人宇宙船オリオン(今回は、無人で航行)が無事に月を周回し地上に戻ったことで、一応の成果を得た。今後は有人での月周回を経て、2025年には人の月面着陸、さらには月に人工基地を作っての開発プロジェクトが控えている。
しかしながら不安要素は残る。オリオン打ち上げは当初8月末に予定されていたが、水素燃料漏れが起きたため延期。その後再延期となり、11月にまでずれ込んだ。本来は人類の月面着陸も24年に予定されていたが、現行のスケジュールではまだまだ遅れが出るかもしれない。
その一方で中国は、独自の宇宙ステーション「天宮」を開発、ロケットとのドッキングに成功した、との報道が流れた。また、今月11日には、イーロン・マスク氏が率いるスペースXのロケット「ファルコン9」に載せられた、日本のispace社の月面着陸船の打ち上げが成功し、月への着陸が期待されるなど、民間の宇宙開発の伸びが目立つ。
そもそもアポロ計画以降、米国は宇宙開発には後ろ向きな時代が続いていた。宇宙ステーション(ISS)はロシア主導だし、ISSへの宇宙飛行士の移動にも長くロシア製ソユーズロケットが使われる時代が続いていた。
この間に何が起きていたのか、といえば2大航空宇宙産業企業であるロッキード・マーチンとボーイングによる寡占状態だ。2社は独自のロケット開発を行う一方で、ジョイントベンチャーとしてULA(ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)を結成し、アポロ以降の米国の政府によるロケット打ち上げは、ほぼULAによって行われてきた。しかしULAにはロケットエンジン技術がなく、エンジン部分はロシア製のものなどが使用されてきた。
寡占に風穴を開けたマスク氏
この状態を「違憲である」と提訴したのがマスク氏で、その結果スペースXが軍の衛星打ち上げロケットの座を獲得した。民間とは言えない規模のULAに対し、スタートアップであるスペースXが入札で勝ち、さらに遥かな低価格でのロケット打ち上げを実現させた。
今回の「アルテミス・ワン」で使用された、SLS(スペース・ローンチ・システム)の開発はボーイング。宇宙船オリオンは、ロッキード・マーチンがメインの事業者として選ばれた。また、エンジンを担当したのは、エアロジェット・ロケットダイン社だ。エアロジェットは元々ジェネラル・タイヤ・アンド・ラバーという車のタイヤ製造会社で、1945年にエアロジェット・エンジニアリングを買収して航空宇宙産業に参入した企業である。その後買収を繰り返し、2017年に現在の社名となった。
結果的に歴史ある大手が入札で選ばれ、スペースXやブルー・オリジン、シエラネバダなどの新興企業は選ばれなかった(NASAによる月面着陸計画にはスペースXも参入予定)のだが、これが予算の大幅超過やスケジュールの遅れにつながった、という指摘もある。
ただしNASAも新興企業の採用に後ろ向きというわけではなく、