2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年6月19日

 中国が、北極圏諸国に対し、全ての国が北極の恩恵を共有できるよう人類の利益を考えることを求めているのは皮肉である。中国は自国近海の領有権について、そのような寛大な姿勢は全く見せていないからである。中国は自国の核心的利益に関わる問題では強硬であるが、中国の北極海への関心については心配する必要はない、と論じています。

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 中国の北極海進出は、強い警戒心をもって見られていますが、これは、中国を擁護している論説と言ってよいでしょう。

 筆者は、中国が北極に関心を持つ理由として、北極の気候変化が自国に及ぼす影響、ロシア沿海の北極海航路の利用、北極のエネルギー・鉱物資源と漁業資源を挙げていますが、結局は、北極海航路と各種資源です。北極の気候変化というのは、あまり説得力がありません。

 論説は、中国は、沿岸国の権利を認めた上で、沿岸国とのパートナーシップの下で資源開発に参入するとの姿勢を取っている、と言っています。しかし、それ以外のやり方で関与することは不可能であって、懸念されているのは、中国が強引なやり方で進めるのではないかということです。また、核心的利益と称して、自国沿岸で隣国に対して強硬姿勢をとっている中国が、北極圏のガバナンスに影響力を持つことを目指せば、不信感を持たれるのは仕方のないことです。

 確かに、北極は中国の核心的利益に関わる地域ではありませんが、中国は世界最大の砕氷観測船「雪龍」を保有し、既に5回の北極観測航海を行っている他、新たな砕氷観測船も建造中であり、2014年には就航の予定です。極地研究に特化する国家海洋局の中国極地研究所は、120名の職員を擁しています。ノルウェーのスバールバル島に観測所を設けており、更に、アイスランドにもオーロラ観測基地を作る計画と言われています。論説は、北極は中国外交の優先事項ではないと言いますが、相対的な優先順位の問題ではないように思われます。

 我が国も、沿岸国との連携の下、資源探査・開発や北極海航路の実用化に関与する必要はあります。それに際しては、北極評議会が掲げる、持続可能な開発や環境保護などの北極圏に関わる共通の課題に関し、先住民社会等の関与を得つつ、北極圏諸国間の協力・調和・交流を促進する、という理念に則って(我が国はこの点で高い評価を得ている)、北極海沿岸国の良き隣人になるとのスタンスを堅持しつつ、北極圏のガバナンス形成に貢献していくべきです。

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