豪ロウィー研究所の中国専門家であるリンダ・ヤコブソンが、中国が北極評議会のオブザーバー資格を認められたことについて、北極は中国の核心的利益には属さないので過度の警戒は不要である、と5月19日付FT紙掲載の論説で述べています。
すなわち、北極評議会(Arctic Council)が中国にオブザーバー資格を与えるか否かにつき、異常な関心が集まったが、中国は、インド、日本、シンガポール、韓国と共にオブザーバー資格を認められた。
このように強い関心を集めたのは、中国の全ての動きが注目され、中国の意図が疑われているからである。中国がその国力をどのように使うかは誰にも解らず、それが不安や恐怖を招く。過去3年に渉り中国が自国の近海で攻撃的な行動をとってきたことが、中国は拡張主義的な暴れ者になるのではないか、との疑惑を煽っている。
しかし、中国の狙いは理解できる。第一に、北極の氷が溶けることは、北東アジアの気候に大きな影響を与え、農業を害する恐れがある。また、中国は、海岸線が低いので、海水面の上昇により最も影響を受ける国の一つでもある。
第二に、20年以内に、ロシア沿海の北極海航路が北東アジアと欧州を結ぶ夏季の輸送ルートになる可能性があり、中国も関心を持っている。中国にとって当面の最大の関心事は、ロシアが沿海の航行や砕氷船の利用について賦課する運航料金の額である。金額が不当に高く設定されれば、北方ルートは割に合わなくなる。このような問題は、今後、北極評議会が取り組むこととなる。
第三に、中国の動機が疑われる理由でもあるが、氷が解ければ、北極海底のエネルギー・鉱物資源にも手が届くことになり、また、新たな漁場ができる。
但し、北極の資源の大半は、沿岸国の領海または排他的経済水域の中にある。中国は、北極圏沿岸国の主権的権利と管轄権を尊重することを再確認している。中国は資源開発のための投資を提供することなどにより、沿岸国とのパートナーシップを築くことを目指している。
中国が北極評議会に求めることは何であろうか? 中国は北極の経済的可能性に関心があり、北極地域のガバナンスに影響力を持ちたいと考えている。オブザーバーに議決権は無いが、決定に至るまでの非公式な対話に影響力を与えることは可能と考えているのであろう。ここ数年、中国の学者や政府関係者は、北極圏が提供する機会と挑戦はグローバルなものであり、中国も「北極圏のステークホールダー」であると強調している。
そうは言っても、北極は、中国外交の優先事項ではない。勿論、中国は、大国として、北極の将来につき関与する権利を求め続ける筈である。言い続ければ、何れそれが認められると期待してのことである。