攻撃材料を手に入れたロシアの反応
他方、ロシアにとってこの事件は格好の外交上の攻撃材料となった。ロシアは、シリア問題や核兵器削減問題などで、G8で居心地が悪い状況にあった。しかし、G8サミット直前に本事件が明らかになり、特に、英GCHQが2009年にロンドンで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合などで、各国代表団の電話や電子メールを傍受したことや、米国がメドヴェージェフ大統領(当時)の会話を盗聴しようとしていたことも報じられ、英米に対して強気に出られる状況が棚ぼた式に生まれたのである。プーチンの孤高を保ったG8での姿勢は、ロシア国民から高い評価を得たという。
今回、6年ぶりにG8に参加したロシアのプーチン大統領(前回のG8サミットにはメドヴェージェフ首相を送り込んでいた)の個人代表を務めるクワソフ氏は、2009年のG20サミットにおける通信傍受疑惑に対する強い懸念を表明した。しかし、ロシア外務省は、同疑惑に対するコメントを行わないと公式に表明した。
ロシアは亡命容認の構えだった
前述のように、米国から訴追されたスノーデン氏は亡命を希望しており、実際に、彼が最も希望するアイスランドに対しては代理人を通じて非公式に打診をしていたようだが、アイスランドは回答を避けていた。そして、23日にはエクアドルへの亡命申請が明らかになり、にわかに亡命に現実味が出てきた(ただし、24日現在、エクアドル外相は亡命受け入れについては未定だと発表している)。オーストリアなど一部の国では亡命受け入れを提案する声も出ていたようだが、そのような中で、ロシアも亡命先として有力視されていた。
実際、6月11日にはロシアから彼の「亡命受け入れ」に関する積極的な報道が相次いだ。ペスコフ大統領報道官が、スノーデン氏がロシアへの亡命を「申請するなら検討されるだろう」と述べたと報じられただけでなく(『コメルサント』)、下院のプシコフ外交委員長も「ロシア政府は政治的動機で迫害された人を守る」と強調した上で、スノーデン氏からの亡命申請があれば受け入れる姿勢を示したと報じられた(『ロシア通信』)からである。
他方、スノーデン氏の姿を隠すために米国やメディアに対して情報を混乱させるなどし、氏を支援している内部情報告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ氏(現在、昨年6月19日から在英エクアドル大使館で生活している。エクアドルに亡命申請して認められたが、大使館外に出たら直ちに逮捕されるため、大使館での生活を続けている)も、ロシアの『RT』のインタビューの中で、同氏にロシアへの政治亡命について真剣に考えるよう助言したと報じられている。アサンジはスノーデンと連絡を取り合っており、電話記者会見でスノーデンについて「健康状態に問題はなく、安全なところにいる」とも答えている。なお、オバマ米政権は、ウィキリークスとスノーデンの連帯に苦悩しており、より一層の機密情報の流出の可能性に戦々恐々としている。
現実問題としても、ロシアほど亡命地として都合の良い条件を備えた国はなかったというのも事実だ。