プーチンは、少なくともロシアでは法廷による令状交付なしに、市民の電話を盗聴することはないと語り(ただし、ロシアの諜報活動は極めて活発であり、筆者はこの主張を真であるとは考えていない)、合法的に情報監視が行われるのであれば問題ないが、違法になされるのならそれは悪だ、と述べたのである。そして、「100%のプライバシー保護と100%の安全保障の両立は不可能」だという旨のオバマ大統領の声明を批判し、それは可能だし、やるべきなのだと主張した。
ロシア国内では激しい反応
「法の遵守」の問題から攻める
このように、プーチンは「法の遵守」に米政府批判の焦点を当てており、それに倣うかのように、議員や官僚も動きを見せている。
ロシアの上級官僚は、同事件を受け、ロシアの関連領域の法律を新たに整備することが急務だと主張している。また、ロシア外務省の人権担当全権大使であるドルゴフは、ロシアの下院で開催された特別会議で、ロシア市民の個人データの漏洩を認めた米国当局の行動を無視できないと強調した。そして、ドルゴフは、「国連安全保障理事会のテロとの戦いに関する決議では、例外なく人権の尊重が謳われており、また国際法尊重の原則は、テロとの戦いと比しても軽んじてはならないものだ。我々は、米国の現在の法制が、国際法規範とかみ合うものなのかどうかを分析しなければならないが、本件について、我々は多くの疑念を持っている」と述べたのである。
さらに、米国の情報収集の問題が米国憲法修正第4条に該当するかどうかが検証されるべきだとも主張している。つまり米国の行動は、国際法のみならず、自国の法律にも違反しているのではないかという疑念を呈したのである。
さらに、ロシア議会の圧倒的な多数派である与党「統一ロシア」の幹部で下院の副議長であるゼレズニャクも、米国機関がロシア市民の個人的なデータを収集しているかどうかについての詳細な調査を行うよう強く主張した。ゼレズニャクは、「物理的にロシア領内にあるサーバーについてのみ、公的な主体の全ての情報を管理する」という形にロシアの法を緊急に改正する必要があると主張し、彼が「デジタル主権」と呼ぶその法案を秋の下院議会で可決しうるとも発言している。加えて、ゼレズニャクは、(米国など外国の製品を使うのをやめて)ロシア自前の電子産業とソフトウエアセクターを振興させるべく、「官」がもっと支援するべきだと訴えている。
また、上院議員のガッタロフは、ロシア人のインターネットユーザの個人データに米国の機関がアクセスしたかどうかを調査するワーキンググループを即時に創設すると約束した。ガッタロフは、そのワーキンググループは、ロシア逓信省、およびロシア通信ITマスメディア監督庁(ロスコムナドゾル)の代表たちや、カスペルスキー・ラボなど、ロシアの主要なIT企業のエキスパートたちから成ると述べている。加えて、ガッタロフは、本件へのきちんとした対応を人々が求めている以上、結果を出さずに放置することはできないと強調し、議員達が「国際レベルでの調査」を可能にする方法を模索するとも述べている。