2024年12月14日(土)

解体 ロシア外交

2013年6月26日

英米の弱みをにぎったロシア

 このように、ロシアは米国を公に批判することは避けつつも、本件により外交を優位に展開するための好材料を得たといえる。前述のように、本来、シリア問題などで立場が悪くなると思われていたG8サミットでも、むしろ優位な立場を維持することができただけでなく、従来から、欧米諸国により「人権」「表現の自由」などで散々批判を受けてきたロシアが、むしろ同じ問題で英米を批判できる状況を、さらに英米の「ダブルスタンダード」という弱みまで獲得することができたのである。

 さらに、ロシアがスノーデン氏の亡命を受け入れる用意も表明し、亡命先がエクアドルだと表明された後も、同盟国のベネズエラまで協力させながら、スノーデン氏の亡命に是面的に協力した。このような、スノーデン氏に対する協力姿勢は、プーチン政権が国民を抑圧しているという欧米の批判への意趣返しだとも見て取れた。もしスノーデン氏がロシアに亡命したならば、ロシアは彼から、米国の諜報活動の実態や方法などに関する極秘情報を入手することができた。その内容次第ではさらに米国に対する強みを獲得でき、国際戦略的にも得られるものが実に大きいと考えていたのだろう。

 他方、スノーデン氏がロシアにいる間は、米国はロシアに協力を依頼し続けるしかない。たとえば、ケリー米国務長官は訴追の事実を無視してスノーデン氏を保護すれば「(2国間関係が)明らかに厄介になる」とロシアに通告した。また、身柄引き渡し条約がないにもかかわらず、米国政府が、近年ロシア人容疑者7人の引き渡しに応じてきたことに言及しつつ、ロシアに引き渡しを求めた。加えて、米連邦捜査局のモラー長官も24日、ロシアの連邦保安局に2回にわたり電話をかけて、直接協力を求め、バーンズ国務副長官らがロシア側に直接働き掛けを強めているという。そして、カーニー米大統領報道官も記者会見を通じ、ロシアに対して送還の依頼を再三行っている。さらに、CIAブレナン長官が6月19日、20日に秘密裏にモスクワを訪問した可能性も『インタファクス通信』によって報じられているほどだ。

 その一方で、米国議会ではスノーデン氏の亡命を支援したとして、香港当局や中国政府、ロシアに対する批判が高まっている。ロシアが米国の機密情報を得るためにスノーデン氏をとどめ置いたり、VIP的厚遇や支援を継続するなど、「冷戦時代のような古い外交ゲーム」(ブルッキングズ研究所のオハンロン上級研究員)を仕掛ける可能性を危惧する米国の識者もいる。

 今後、本件は米ロ関係や米中関係にも悪影響を及ぼしていきそうである。また、同時に本事件は複雑な問題が交錯しており、暫く英米両国のみならず、国際社会を揺るがしていくと思われる。今後の展開にも注目していきたい。


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