2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2013年6月28日

 <今までの冒険もそうだったが、この三つ目の場合も、無知がやる気に火をつけてくれた。僕は自分の体について、あきれ返るほど何も知らない。(中略)そのうえ僕は、何を食べたり飲んだりすればいいのかも知らないし、どうやって運動すればいいのかもわからない。考えてみれば奇妙なことだ。それって要するに、41年も同じ家に住んでいて、キッチンの流しの使い方なんていう最も基本的な情報を知らずにいるようなものじゃないか。> 

 というわけで、いろいろな食事や運動のメニューに挑戦するのみならず、「最も極端な」アドバイスを実際に試すことにしたのである。

 「なぜなら、聖書生活の1年が教えてくれたように、限界を探ることによってのみ完全な中庸を見出すことができるからだ」。

 プロローグのこの文を読むと、著者ははじめから、中庸がよいと結論していたとわかる。つまりネタバレになっているのだが、それはさておき、極端な健康法を、文字通り体を張って試す”one man’s humble quest”(男ひとりの地味な探求)は、諧謔に富み、一気に読ませる。

 下品になる一歩手前で表情豊かな言い回しを駆使したり、個性的な祖父やおばの生き方を通してしんみりと人生を考えさせたりする筆力は、さすがである。体当たり本であるだけに、天邪鬼だが憎めないチャーミングな人柄が隠しきれず行間ににじみ出て、微笑ましい。

対立する意見にも耳を傾ける

 当初2年の予定で始めたプロジェクト(「フルスロットルの健康生活の日々」)は、25カ月目まで続いた。

 ニューヨークのセントラルパークを原始人のように裸で走り回り、丸太を放り投げる「ケイブマン・トレーニング」。雑音をシャットアウトするヘッドホン生活。掃除と消毒に一日を費やす除菌生活。ほかにも、アメリカではやっている○○ダイエットからポールダンスまで、著者が実直にとりくめばとりくむほど、ふっと笑いがこみあげてしまう。

 そこには、現代米国の、ブームを通りこした健康への偏執ともいえる風潮がくっきりと映し出されている。原題の“Drop Dead Healthy(死ぬほど健康に)”が暗示するように、本書の狙いは、実はこちらだったのでは、とすら思う。


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