ところで、構造的な断絶や差別といえば、近年それが明らかに覆った例がある。
ハリウッドに端を発した「#ミートゥー」運動だ。
「ニューヨーク・タイムズの女性記者2人が大物映画プロデューサーの長年の性的暴行事件を追った2017年の調査報道。これは『SHE SAID』という映画になり最近上映中ですが、報道以降映画界でのセクハラは許されなくなりました。構造的差別・分断でも、こうした解決法もある?」
「いや、どうでしょう。女性差別の“ガラスの天井”を打ち破ったとされますが、映画など特殊な業界の話で、女性を巡るアメリカ社会の壁は、 日本ほどではありませんが まだ厚いと私は感じています」
「#ミートゥー」運動は、「天井のガラスにヒビを入れた程度」と大島さんは見る。
本書で描かれた社会の分断は、アメリカだけの話ではない。
社会分断は世界各地に波及
大島さんは本書の前に、埼玉県川口市で住民の半分以上が外国人になった例を『芝園団地に住んでいます』(明石書店)で書いているが、社会分断は世界各地に波及している。
「確かに、ブラジルでは選挙不正を訴えた前大統領派が国会を襲撃しました。ドイツでは陰謀を信じる極右派のクーデター未遂事件がありました」
トランプ支持者の連邦議会襲撃と同様の暴力による意思表示は、「闇の政府」支配など陰謀論の信奉者に共通する特徴だという。
「イギリス、フランス、イタリアなどのデモは、物価高騰や年金政策への反対を掲げて合法的ですが、その裏側には社会から外されているという疎外感があります。その意味では、ヨーク郡の白人社会に渦巻く不満や不安に通じ、一部は陰謀論者たちの民主主義否定の姿勢と重なるかもしれません」
世界を覆っている断絶の荒波は、「下手をすると民主主義の危機につながる」と大島さんは危惧する。
「情勢回復の芽は、どこかにありますか?」
「中間選挙で過激な主張をするトランプ推薦の候補が負け続けたのは良い兆候という識者もいますが、問題は24年の大統領選挙です。その結果次第でしょう」
良くも悪くも、超大国アメリカの動向が我々の未来を大きく左右しそうなのである。