2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年3月16日

 本来、市場経済において投資の決定は、具体的な投資サイトの選択を含めて投資家が決定する問題であり、投資受け入れ国政府や州政府は、種々のインセンティブをオファーして投資誘致を図るのであり、国家指導者がトップセールスとして働き掛けることはあろうが、投資地を強制することは考えられない。そのようなことをすれば、企業は、投資を控えることになろうし、当該国の投資環境上の問題として他の投資にも影響が出るからである。

 今回、テスラの当初の方針をロペスオブラドールが認めたとすれば、やはり、10億ドルに達するという投資規模を背景とするイーロン・マスクの交渉力と水対策も考慮するという対応にあり、ロペスオブラドールのルールでは例外的なケースとなるのではないかとも思われる。テスラのブランド力や注目度も高くもあり、ロペスオブラドールとしてもこの問題で揉めることは得策でないと判断したのであろう。

「脱中国」の恩恵を受けるメキシコ

 重要な点は、このような要求を行い、条件を付けるほどロペスオブラドールが強気に出られたのは、それだけ現在のメキシコが投資先として比較優位にあることを示しているということである。

 米国のデカップリング政策で、中国から工場を引き揚げる米国企業にとって、メキシコはやはり、人件費は安く産業の集積や一応のインフラもあり、何よりもUSMCAの枠組みの中で関税上のメリットなどがある。EVについては、米国インフレ抑制法による優遇措置の対象ともなる。また、EV製造やリチウム電池の製造などをめぐり、メキシコにおいて設備の変更や新工場建設による投資ブームが到来する可能性もあるであろう。

 確かに、ロペスオブラドール政権においては、エネルギー政策や選挙法の改正等、確実性を保証する法の支配やルールの明確化に問題は多い。しかし、ロペスオブラドールの任期もあと2年を切っており、例え、同じ政党から後継者が選ばれたとしても、現在の状況よりは改善することも期待される。

 USMCAが存在し、微妙な緊張したものにせよ米墨間の協力関係が継続し、メキシコ内政が不安定化せず、メキシコの投資先としての様々な比較優位が揺らがない限り、EV分野やハイテク部品分野などへの投資の流れは今後も続くであろう。

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