南米ペルーのエコノミストで政治家でもあるフリオ・グスマンが、ラテンアメリカでの中国の影響力拡大に欧米が対抗するためには人への投資が最善の策だと、米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」のウェブサイトに1月16日付で掲載された論説‘China’s Latin American Power Play’で論じている。主要点をごくかいつまんでご紹介すれば以下の通りである。
(1)中国のラテンアメリカへの経済的進出は既に突出しつつある。この地域が経済低迷・財政難に陥り中国資金に頼らざるを得ないことから、今後そのプレゼンスはさらに増大する。
(2)しかし、中国はその外交目的実現のために経済力を使おうとしており、プロジェクトへの融資の際に返済能力や環境配慮を軽視し、中国への返済を他の債権者よりも優先するなど秘密の契約で不当な条件を課し、相手国の民主的な規範や国際的なルールに反するなどの問題点がある。
(3)他方、ラテンアメリカ人は、民主主義と国家主権を重視していることから権威主義的な中国がこの地域で支配的な影響力を及ぼすことは受け入れないはずなので、欧米は、資金提供で中国と競争するのではなく、原理原則の問題で戦うべきである。
(4)具体的には、欧米は、有権者に対し民主主義の価値を教育するキャンペーンへの協力や留学生・研究者などに対する奨学金を大幅に増加させるなど、人に対する投資を強化することにより、指導者や市民が民主的な制度や政策を選択することや、格差の是正や持続的な開発も可能となる。
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この論説の筆者のフリオ・グスマンは、米ジョージタウン大学や英オックスフォード大学に留学し、米州開発銀行(IDB)勤務やペルー政府高官を務めたエコノミストで、その後政治家に転身して2016年と21年に中道派からペルーの大統領選挙に立候補し、大差で落選した経験を持つ。
米国はラテンアメリカにおいて人的資源への投資で中国に対抗すべきだとのグスマンの主張は傾聴に値する。西側が資金力では中国に対応できないので、民主主義についての理解促進など、人的資源に投資すべきだとの指摘は、それなりに良い着眼点である。
しかし、それだけでは、中国に対する最善の対抗手段になるとは言えないだろう。まず、現地の民主化団体に協力して有権者に民主主義の価値を教育するといった手法自体が、内政干渉であるとの反発を招きがちで機能しない。バイデン政権はこのことを既に経験している。
ラテンアメリカからの留学生・研究者招聘の増加やオンライン教育に取り組むべきだという提案は大変結構であるが、実際に民主化を促進する効果が出て来るまでには時間がかかる。中国の影響力拡大の問題は、この2~3年が勝負と思われるから、それには間に合わないであろう。
ラテンアメリカ諸国と中国との経済関係は深まっている。エクアドルは昨年、中国との間で自由貿易協定(FTA)を締結した。南米南部共同市場(メルコスール)加盟国のウルグアイでは、右派政権が中国とのFTA交渉を希望している。アルゼンチンやブラジルなどはますます中国との提携を模索するであろう。4月のパラグアイでの大統領選挙では、台湾と外交関係を維持するか否かが争点となっている。